チリの風   その858  2019年10月21日―27日

初夏の素晴らしい天気が続いています。国民はそれを楽しんでいませんが。
トレッキングのため山に入ったら山岳公園は閉まっていました。外出禁止令が続き、その時間が変わるので登山客も係員も山に入れないからとか。仕方がないので近くの丘に登りました。
土曜日の日本人学校の運動会も延期になりました。それほど社会は緊張しています。
日曜日のマラソン練習は4人で実施。走り終わった後、ベランダでコーヒー・ケーキと会話を楽しみました。私にとって最高の贅沢です。そんな大げさなと言われそうですが。
嫁さんの友だちで消防署で働く人が訪ねてきて3人でゆっくり話し合いましたが、仕事が多くクタクタとか。そうでしょうね。放火騒ぎは連日ですから。知らない職種の人の話を聞くのは勉強になります。

日本人は勤勉でチリ人は飽きやすいと思われますが、今回のデモは毎日続き、チリ人も本気ですね。来週もデモが計画されているとか。

(政治)

1) ピニェラ動向
ピニェラは各地で暴動が続くこの大事件を収めるため大統領案を発表し、国会で迅速に承認するよう要請しました。
その内容は次の通りです。
  1 年金
    チリでは、毎月各自が積み立ててその基金をもとに年金が払われますが、その額が極端に少ない人に
    政府が補助をするシステムがPBSで、それが最低13万3千ペソになる予定。
    その年金をもらえない人は(毎月積み立てていなかった人)生活保障APSとして老齢者は8万8千ペソ
    身体障碍者は12万3千ペソの額が見込まれています。
    先日、発表されたマーサー年金指数では世界ランクの1位はオランダ、チリはラテンアメリカトップの10位でし
    た。日本は31位ですから、専門家の目でチリ方式が日本よりはるかに進んでいることが証明されていま
    す。もう何度も書いていますが、チリ式は各自が積み立てた金が基本ですから、若年者が増えても減っ
    ても年金制度に影響はありません。おまけに民間の会社が資金運用をしていますから、親方日の丸の日
    本と違って利益率が日本より上です。それはちゃんと数字が出ています。
  2 最低賃金
    現行の30万ペソが35万ペソに上がります。
  3 電気料金
    先日9.2%の値上げが発表されましたが、それが取り消され、今までと同じレベルになります。
    電力会社は理由があって値上げしたわけで、ちゃんと政府の承認を得ているのだから、この値上げ取り消しは
    不可解としています。 
  4 高給者への増税
    毎月8百万ペソ以上の収入のある人に新しく40%の税金がかかります。現行は35%です。しかしこれには裏話し
    があって、2014年まで最高税金は40%だったのですが、それが35%に下げられました。それは右翼政権下と思
    われるでしょうが、違います。左翼のバチェレットの仕業です。
  5 厚生・薬品
    特殊な病気など費用が多くかかる患者に新しい保険を作り費用の援助をする、高い薬品価格を他国並み
    に引き下げることを実行する。これは既に提案されている事項です。
  6 国会議員
    議員の高い報酬を下げる、議員数を少なくする、再選の回数を減少させるなどが提案されました。ただ
    し給料がいくらになるかの具体的案はなし。右翼と左翼の議員が話し合って、「世間が納得するよう報
    酬を下げましょう」と発表するでしょうね。ただし減少額は2%だったりして。議員数の削減は左翼も右
    翼も手をつないで反対するでしょう。
  7 地域格差是正
    首都圏と地方、サンティアゴの中でも東部と西部の区ではかなり雰囲気が違いますから、それを是正
    するため、政府の各区への援助の仕方を変更しようとするものです。
   
これを発表する前日のことですが、政府内で討議され、(私の推定です)一部の幹部が「親方、これではまるで共産党の要求する事項を丸呑みしているとみられませんか?もう少し粘った方が良いのでは」またバチェレットを招待する件についても、「まるでこっちでは問題解決できないのでバチェレットのお手伝いを要請していると思われますよ」
ピニェラはそれに対し、「先日、私が地下鉄料金の値上げ取り消しを発表した時、敵方は勝利の歌声さえ上げなかった。つまり小出しにしていっても敵の反応はないのだよ。従いすべての項目に対し明確な数字を出し、またバチェレットを招待することで当方が隠し事をしていないことを世界に知らせるわけだ」
彼はバチェレットと電話で連絡しチリ訪問を依頼。彼女は国連人権委員会の部下のチリ派遣を決定しました。明日、チリに到着するとか。少し前にべネスエラで起こったこと同じですね。

非常事態宣言、外出禁止令が発令されていますが、これは役に立っているのか、この先も継続する必要があるのか考えてみます。商店の略奪行為は継続していますが、頻度は少なくなっています。これは非常事態宣言が役に立っているか、犯罪グループが行動を抑えたかですね。また外出禁止令は各地に発令されていますが、その対応時間は短くなっています。商店の略奪は一般市民が誰でもいつでもできるわけで、犯罪グループが10人ほどで店に入り、欲しいものを取って逃げる事件は以前からあります。今回の事件がそれと違うのは商品の略奪の後、店内に放火して逃げるということです。また犯人グループが機関銃などの重兵器を持っていると言われ、それは一般市民ではなく麻薬組織のメンバーでないかと思われます。まるで組織が若手を育てるため、一般市民を巻き込んで事件を起こしているとみられるわけです。それなら警察の犯罪監視グループが麻薬組織の動きをチェックすれば犯人逮捕に結びつき、次の犯罪防止になるはずで、警察の頑張りが期待されるところ。この週末に外出禁止令は取り消されました。

フランスの国会である議員が来月チリで開催されるCOP25の自然保護会議にフランス代表を送るのをやめようと言う発言をしました。危険と言うわけですね。私の予想通りの展開。チリの現状はフランスで先年、黄色いチョッキグループの反政府運動が大騒ぎを起こしたのと似ています。またブラジルの大統領はチリと同じことがブラジルで起これば自分は直ちに軍隊を使用するとコメント。敵に対する警告かな?

デモ
月曜日から連日デモが行われましたが、その最高潮が金曜日でした、なんと120万人が、テレビ局によって150万人と言う報道もあり、道路に溢れました。イタリア広場がその中心ですが、アラメダ通りなど数キロにわたって人が埋め尽くしました。
今まで最高の人出だったのは1988年の軍事政権存続可否の投票の後で、ノーが勝ったのですが、そのお祝いに100万人と言われる市民が集合したわけです。今回はそれをかなり上回りました。
ほとんど平穏にデモが終わったので、州知事が(与党側ですが)このデモは新しいチリのシンボルだと喜びを表しました。サッカーファンもその広場に駆け付け、各チームの旗を振りました。しかし不思議なのは犬猿の仲のコロコロとチリ大学ファンが友好ぶりを示したことで、通常では起こりえません。
このデモに来た理由は何ですかと聞かれると、格差の縮小、年金の改善、給料のアップなど、前日のピニェラが発表した政策に関するものがほとんどでした。ピニェラ批判のほかに大臣の変更を要求する声もありました。(ピニェラは内閣改造を明日実施する予定です)軍事政権に戻りたくないとかべネスエラのようにはなりたくないと言う声もあって驚き。
前日、統一労働組合は政府に嫌がらせをするためデモをしたときは、この組合の怪しいリーダーは共産党員です、まだ緊張感がありました。本日、その代表は最低賃金のアップについて「35万ペソでは役に立たない、50万ペソにせよ」と強気の発言。もし、50万ペソになって、それが原因で中小企業が倒産したら、そんな馬鹿な企業は必要ないと言うのかな?
しかし興味深いのはそのデモの翌日、多くの若者が広場に集まり、掃除を始めたことです。120万人が残したごみ、瓶、カスを箒で集めてごみ袋に入れました。ほかのグループはデモ隊が壁などに残した落書きを消す作業をしました。ペンキで元の色に戻すわけです。半日でほとんど元の状態に戻りました。
22日のヤフーニュースでニッケイ新聞の記事が掲載され、それによると 政府はピノチェット政権末期の1990年以来となる軍の派遣を行ったと書かれています。しかし2010年に南部で大地震があった時、商店の略奪行為が収まらず、バチェレットは軍隊を保安のため現地に送りました。つまりニッケイ新聞のエラーですが、その後、いろんなメディアで同じエラーが繰り返されています。誰かのエラーをコピーするのでしょうね。                      
この大騒ぎの後、世論調査が行われピニェラを支持するは14%に落ち過去最悪を記録。(拒否するは78%)今までの記録は2016年のバチェレットが出した18%でした。

(経済)

1) 来年度予算
上記の大統領案が成立すると政府は来年12億ドルの追加支出になります。赤字、いや借金が増えるわけですね
2) 銅価格と為替
銅はポンド当たり2.66ドル、1ドルは727ペソまで下がりました。
株式市場が今週4.8%も下がり、これはこの2年間で最悪の下がり方です。

(一般)

1) 学校の休校
ほとんどの学校が、私立・公立ともこの1週間休校になりました。小学校から大学までです。来週は正常化されるとみられています。

2) スーパーマーケット
月曜日、店に入ると多くの人が買い物をしていました。それはそれほど不思議ではないのですが、買っている量が異常でした。例えばコメを1袋買えばよいのに何袋も。同じく野菜・肉・・これから店が閉まってしまうという恐怖感が市民にあったのでしょう。レジでの支払いが大混乱で、その日1時間以上待たされました。次の日、また行って見ると、店の方も考えて、支払いの長い列ができないようにと、客が店の中に入るのを制限。長い列の、前から20名ずつ中に入れるようにしました。そのため1時間も待たされましたが、支払い時は混乱なし。兵隊が出入り口を管理していました。
それが週末にはなくなりました。良かった、通常に戻って。
3) 高速料金
金曜日、トラックが長い列を作って抗議。交通渋滞が派手でした。高速道路の通行料金が高すぎると言うものです。何年かの比較で物価上昇率が20%上がっているのに高速料金は40%も上がっているとかで、政府が許可しているのでしょうが、不正な値上げが分かります。この値上げ事件はどう解決するかな?
ところで地下鉄・バスの公共運輸ですが、バスはほとんど正常化、地下鉄はまだ全区間が開通している路線はありません。一部の区間・駅が封鎖されているからです。しかしそれだけの暴動を起こした犯人グループがだれ一人逮捕されていません。と言うことは、いつ何時、彼らの手で第2次暴動が起こるかわかりません。何億ドルと見積もられる補修費用を払って営業再開したら、また彼らにやられればチリ社会全般の大問題になるのは自明ですね。さて警察の実力はどんなものかな?


以上