チリの風  その101  04年11月28日―12月4日

チリの風  その101  04年11月28日―12月4日

そう言えば、先週はこの風が100回を迎えたと感激しましたが、今週はもう12月に入ったのかと感激にふけりました。まぁ私は何にでも感激するわけですね。安っぽいけど・・・。
12月2日に日本大使館天皇誕生日の祝賀パーティがあり、私も出席させてもらいました。寿司など立食の食事の後、能の舞台がありました。初めて生の能を見て、感激したかったのですが、さっぱり歌謡の文言が分からず、惨めに敗退、教養のないところをさらしてしまいました。
そのパーティでチリ大学の教授と知り合ったのですが、彼は大学で日本の歴史を教えているとかで、チリ人がいかに日本を敬愛しているかはあなたには想像も出来ませんよと言われ、感慨にふける。私が毎日、接触している工場の職工さんとは大分違うらしい。


(政治)
1)今週はもうこれだけを書かなければならないというくらい。ベルチ報告を受けて人権問題が緊張してきています。(レポートを作成したベルチはカトリック神父です)

 A)陸軍長官が、組織として行き過ぎたことが行われたのは事実と表明したのに対し、海軍は一部の軍人の間でそういった行為があったとすれば、それは個人の問題で海軍組織としての行いではないと長官がきっぱり否定。しかし一部の?人間が一般市民を基地の中に連行し留置、拷問を加えていた事実を上官が知らなかったとはいえないだろう。もしそれが事実なら、それら上官は事態を把握していなかったとして監督不行き届きで訴訟を受けるべきでは?
海軍の象徴とも言える帆船エスメラルダの上で拷問が行われていたことも確認されている。

B)軍事政権時、政府と同調して人権問題を助長した(もしくは抑制することをしなかった)として司法、マスコミが挙げられています。で、今週、右翼系(?)のマスコミのテレビ13チャンネルで部長級の人間がこの事件に関連して罷免されました。遅すぎると言うか、ようやくというか。

C)ラゴス大統領は、これら拷問被害にあった人間に、約4万人と言われますが、生涯年金の支払いを準備したいと発表。これに対し身内の社会党からその金額(約3万円)が少なすぎるとクレームが出たとき、他のどの国の、どの政府が私たちのような対応をとったでしょうかと反論。
また新聞記者からその対応振りを批判された社会党の党首は取り乱してしまい、その新聞記者の胸倉をつかんでしまう。

D)今週、エナデの総会がありました。日本でいえば、経団連の年次総会のようなものです。大統領が冒頭に挨拶するのですが、今年は他に4人の大統領候補も呼ばれそれぞれが所信表明を行いました。(一人は病気でコメント読み上げのみ)
さてその他にエイサギレ大蔵大臣が登場し今年を振り返って、また来年の見通しを発表しました。ここまでは通常だったのですが、最後に自分の(複数の)友だちが軍隊に連行され殺されている。自分は生き延びれるかどうかお祈りする毎日が続いていたと告白。会場は水を打ったように静まり返る。
そして自分たちの子供、孫が同じ経験を繰り返さないため、ここに集まっている人間の間で合意に達したいと結んで大拍手を受けた由。
現在チリを代表するような政界、財界の人間は、弾圧するか弾圧されるかの両極端にたって生活していたわけで、大蔵大臣の告白は、氷山の一角。これからも続くでしょう。

E)しかし、こういったときチリの新聞に必ず投書がのるのですが、それは「左翼がこの事件に関して右翼の誹謗中傷をするなら、軍隊が政権を奪取しなければならなかった背景について説明してほしい。そして右翼側全員に謝罪を求めるなら、左翼全員がまず国全体に謝罪してもらいたい。さらに軍事政権時代のおかげで今日の繁栄があるのは明白ではないか」

F)FPMR(ロドリゲス愛国戦線)のリーダーで、右翼政党UDIのリーダーだったグスマン議員暗殺やメルクリオ新聞のエドワードの営利誘拐を実行したとして指名手配中だったアパブラサがアルゼンチンで逮捕された。チリ政府はただちにチリへの護送を依頼したが、さてどうなるか。彼はアルゼンチンからチリに何度も偽名を使って入国していたらしい。

G)さて現在も、その時代のチリと同様の犯罪が起こっている国が、世界各地に存在します。つまり人間は過去も現在も将来もこの種の犯罪とは無縁でいれないわけです。チリにせよ、日本にせよ一応平和な国(時代)に住んでいる幸運を感謝するべきなのでしょうか?
いくら本人に力があって、そして努力しても、戦前の日本とか、30年前のチリに住んでいれば、自由や幸福を手にする可能性は今の感覚ではほとんどなかったでしょう。
私は現在チリで平穏な生活を楽しんでいますが、わずか30年前、このチリで身の毛もよだつ、拷問、殺人事件が日常茶飯事に行われていたわけです。警察や、軍隊に連行され、殴る蹴るの暴行を受け、そして最後は行方不明になってしまう。
私は、自分で拷問にはきわめて弱い体質と思う。拷問が始まる前に発狂するかもしれないし、その前に自分を逮捕したグループに殴りかかって、そこで大勢に撲殺されるかもしれません。釈放を待ってじっと耐え忍ぶと言うのは出来そうにありません。よかった30年前のチリにいなくて。

数年前、私が働いていた会社の社員で髪の毛が真っ白な技術者がいましたが、彼は当時警察に逮捕され、おまえを翌日、銃殺にすると言われて、黒かった髪の毛が白くなったそうです。彼の友人が、先に逮捕され、政治活動グループ仲間の名前を白状しなければ殺すと言われ、全く政治活動には関係していなかった彼の名前を出したらしい。彼は釈放された後も、1年くらい、警察官の近くを通ると身体が震えたと言っていました。ちなみに彼は背も高く頑丈な体格をしています。
しかもどこかの機関の調査で、そのころ逮捕拷問されたのは通常の人間が大半で、先の私の元部下の例のごとく、筋金入りの左翼グループの関連者でないことがはっきりしています。これもやっぱり運の問題。さらに拷問するほうに回った人間も、大半は普通の人間で、例えば、軍の兵士が上官の命令で拷問暴行を加えたと考えられています・・・・。
ここで私が運命とか、偶然を持ち出せば、大半の人の共感を得られないかもしれませんが、私は単純に今、チリで楽しく生きていれるのは運が良いからだと思っています。


2)ピノチェット問題
彼にはピンチが続く。
アルゼンチンでチリ陸軍大将プラットが奥さんともどもチリの秘密部隊に暗殺された事件で裁判所はピノチェットの事件関連を認め、裁判が可能になった。この件に関し、最高裁判所は数年前、彼の不逮捕特権を認めていたのだが、ここにきて風が変わり、彼を逮捕、取り調べる可能性を開く。
(しかし、この変化が全く分からない。何も新しい事実が解明されたわけではなく、彼が数年前は老齢、病身で裁判に耐えられないとなっており、それが前より若くなって元気になるわけはない)
さらに人権問題事件でも、彼と軍事政権下の内務大臣フェルナンデスが責任者として訴えられており、裁判になればピノチェットの運命は極めて限られた可能性しかない。すなわち有罪になって監獄に入るか(その前に彼向けの特別監獄が完成するだろうが)逃れるとすれば、病死もしくは老死した時だろう。


(経済)
1)エナデでの4人の大統領候補の演説を聞いた経営者の一人は、よかった4人ともほとんどその姿勢に違いがなくてと発言。つまり現体制の継続を確認した分けです。

2)で、チリ経済は05年は、04年にもまして好調になると見られ、国民所得は現在の一人当たり年5500ドルが6100ドルまで上がる見込み。このため消費はさらに好調に上昇するだろうと言われている。
しかし所得分配の不公平さの是正はどのように行われるのだろう。現在トップ10%の国民が全体の40%の富を手にし、下の10%の人間はわずか1%の収入を得ているのみ。
さて最近の3ヶ月、8―10月の平均失業率がやや下がって9.4%になったのは幸い。

3)JPモルガン銀行の発表でチリの国別危険率はさらに下がり、歴史的に見て最低レベルになっている。チリの安定性はもちろんラテンアメリカのトップ。


(一般)
1)首都圏高速道路
12月1日から高速道路の料金徴収が始まりました。タグを使って使用回数を数え、翌月になって先月分の請求書が送られる。で、来月最初の請求書がくるまで、一般ドライバーの文句の声は少ない?
高速を使うと朝の渋滞時間でも平均時速90kで走行可能、迂回道路では平均30Kとの数字が示されましたが。

2)新航空会社
とうとうスペイン系航空会社の運行開始。サンティアゴからプンタ・アレナスに12月6日から毎日2便。これはこの前出現したペルーからのややこしい航空会社と違って、ランチリの強力競争相手になりそうです。

3)テレトン
行こうぜチリ人(Vamos Chilenos)、この歌は、普通はサッカーの国際試合のときに歌われますが、テレトンでもひんぱんに歌われました。盛り上がるのですね、この歌を歌うと。日本で、私たちは日本人!なんて歌うと、こいつは右翼かと白い目で見られると思いますが、チリでは自分たちをチリ人!と叫ぶことは全く普通の日常のことです。
今年、このショーのなかで一番盛り上がったのは、テニスのエキジビション試合で、出場は何と、ラゴス大統領が金メダルのゴンサレスと組み、テレトン責任者のマリオとペーニャ(デ杯チリ監督)組みと対戦。視聴率50%を超えたとか。
今年で26回目のチャリティーショウ。(私がチリにきた年に始まったので私のチリ在住も26年目に入ったと言うことです)
目標を超える114億ペソを集めました。すごい

4)隣国の犯罪
アルゼンチンでチリのトラックが襲われると以前のチリの風に書きました。私は仕事柄しょっちゅう、トラック会社を訪問していますが、ある日、運転手とこの話をしていると、「私のトラックは奪われることはないね。なぜかと言うと、アルゼンチンではこのトラックはあまり売れていないんだ。つまり部品がない。で、これを盗っても他に売れないのさ。
それから商品も、国内で売れそうなものが先ず狙われる。先月、ブラジルからタイヤを積んでチリに向かったトラックがやられ、5千本のタイヤが盗まれたが、これなんて世界的なタイヤ不足から、わざわざ狙ったものと思われている。で、私たちは税関や警察がぐるになった犯罪ではないかと思うのだがね。」
誰か、このあたりの感触を山の向こう側の感覚でアルゼンチンの風として書いてほしいものです。

5)建設現場の事故
今週サンティアゴで8名の労働者が事故死。そのうちの7名は同じビルの建設現場。まず1名が14階から墜落死。翌日、同じ現場で20名が仮設階段から落ち、そのうち6名が死亡、あとは重軽傷。
ある日本人が、ここでは怪談が出るとしてこのマンションは誰も買わないなとコメント。違うチリ人が、いや、それだからこそ、安く買い叩けると、ビルが完成したらチリ人は殺到するだろうとコメント。さてどちらの見方が正しいかな?


(スポーツ)
1)マラソン
28日の日曜日、ナイキ10kがありました。サンティアゴの市内バスでその宣伝を大々的にしていたので、人気が出てなんと新聞報道では7000人もの参加者。(主催者発表は9000人)
私は後ろの方からスタートしたので、スタートラインにつくまで3分もかかった。当然、出発してからも人ごみの中を走っている状態で、全然自分の速度で走れず、そうかニューヨークマラソンもこんなのだろうかと思ってしまった。
  ゆっくり50分でゴールして、遅れてしまった友だちの到着を待った。

2)サッカー
1部リーグはプレーオフに入り、優勝を目指したトーナメント戦。28日も全国で試合が行われた。私はカトリカのサッカー場サン・カルロスへ。
この日はカトリカ対・サン・フェリッペの試合。いつもカトリカのユニフォームを着ていくのに、その日は違った。と言うのはチリでプレーする唯一の日本選手高橋さんがサン・フェリッペでプレーしており、彼の家族と一緒に行ったから。で、なんとカトリカのホームグラウンドで相手チームを応援するなんて・・・。
さて、その日の午後、高橋さんから電話があって、今日は選手全員サンティアゴには行かないかもしれませんって。というのは給料未払い問題がこじれて選手会が試合をボイコットしようということ。
2時間くらい後、社長が来週みなさんに給料を支払うと約束して話し合い成立、バスに乗ったらしい。
しかしテレビ放映権などの収入を全部使ってしまっているので、新しいスポンサーがつかなければ、収入が増える見込みはなく口約束をしてどうなるのか?こんなチームが他にもいくつもある。チリらしい?!
さて1万人の入場者の中でサン・フェリッペの応援をしていたのは10人くらいだった。私のグループが6人だったから、その他は4人?(その4人うち、3人は私たちの横に座っていて、紙ふぶきを撒き散らしていた。もう一人は私の歯医者さんで、彼は一番高い席に座ってカトリカファンの間で悔しい思いをしていたらしい)
試合はカトリカの個人プレーにサン・フェリッペは対応できず3対0で敗戦。しかし大声で叫んだので、疲れた。
その日の朝、10Kを走って、その後、アンデス会のミーチングに参加。午後はチリの風を書いて、夜サッカーでは私の身体はもたない。月曜日からどうしよう。南部の出張が入っているのに。
結局、今のところ準決勝にはカトリカとコブレ・ロアが残り、後2チームを待っています。


以上