チリの風  その102  04年12月5日―11日

ジャカランダの紫の花が、咲き誇ったようにサンティアゴの街路を飾っています。この花は見た目だけでなく芳香を周囲に提供しています。
でも、今週も暑い日が続いてね。30度を超えています。私の働く事務所の中は冷房が効きすぎて寒いくらいですが、タイヤの検品にトラック屋さんを訪問したら、もうその暑さに気が狂いそうだった(大げさだったか)
とは言ってもサンティアゴの裏山は(アンデス山脈のことですが)まだ頂上に雪をかぶっているのがはっきり見えます。さすが5千メートル。
さて大学入試が始まりました。ちょうどその年頃の子供がいないので、緊張感はありませんが、受験生のいる家族は神経ピリピリでしょうね。


(政治)
1)人権問題
A)先週の風で書いたように、この問題を中心に現在のチリが動いています。なんと今週は陸軍学校の講堂で、人権問題セミナーが開かれました。これは普通のチリ人にとって信じられないことです。あってはならない、ありえないことです。拷問事件を加害者としてやっていた陸軍が、こんなセミナーを開催するなんて。しかも、これに参加した社会党の議員が、私もかって拷問された経験を持っている。しかしアジェンデ政権が、自分たちのイデオロギーの舵を取り間違えたことは認めざるを得ないと発言。これも仰天もの。しかし、チリも大団円が近づいているのだろうか?

B)ビクトル・ハラというとチリを代表する歌手ですが、彼は73年の革命直後に惨殺されています。その彼が収容されていたスタディアムの責任者だった元軍人が殺人罪で逮捕されました。30年以上経ってから。
そのとき、彼と同じく収容されていた人間がニュースに出て、ビクトルは私にもう音楽は出来そうに無いと手を見せてくれたが、指が叩き潰されていたとか・・・
それから特筆ものは、司法で、マスコミと並んで人権問題で、国民を守る役割を果たさなかったと非難されていますが、今週、彼らはこれを正面から拒否し、自由が無ければ人権も正義も無いと、軍事政権下の司法は独立していなかったことを理由に非難を受ける必要は無いとしています。(ちょっと破廉恥っぽくないかな)
SAO PAULOさんからブラジルでもこの問題はあるが、ほじくらないほうが良いこともあるとコメントをいただきました。そうですね、しかしチリはここまで来てしまったら、中止、停止は出来ないでしょう。はっきりさせて終了にしたいものです。

2)ピノチェット問題
上のニュ−スの対極にあるのがこっちのニュース。ピノチェットの蓄財についてその源泉はどこから来ているのか、世界中で探しまわっていました。彼の弁護士は、ピノチェットは国の金を1ドルも持ち出したことはないと豪語していましたが、今週アメリカのメディアで、ピノチェットが政権を持っていた時代に世界各国が彼に寄付した金額は1200万ドルに達すると発表しました、これは彼が現在持っているとされる預金金額とほぼ相似のもの。つまりチリの軍隊が武器の購入などをしたとき、常に彼の懐になにがしかのコミッションが入っていたのだろう。
確かにチリの金は1ドルも取っていなかったが、本来は安く買える武器を国に高く買わせて差額を自分の懐に入れていたのだろうか。
それから、彼の長男が、盗難車両の不正買い付け、販売をしていたことで、逮捕され裁判中ですが、月曜日緊張のあまり、法廷で倒れて病院入り。
それで思いだしますが、数年前、同様の容疑で彼が逮捕されたとき、これに抗議した陸軍が、兵士の緊急招集をかけ、これから何が起こるのか一般市民が驚くと言った事件がありました。そのとき、大統領をしていたフレイは、国家安全委員を通じ裁判所に、その事件の凍結、終了を依頼していたらしい。
さてそれから多くの時間がたった。もうピノチェット父の影響力、神通力にも陰りが出ており、今回はピノチェット息子が(刑期はまだ未定ですが)有罪となったので、次はピノチェット父の有罪も考えられます。

3)ラゴス大統領
ペルーのクスコに南米各国の首脳が集まって、会議。ラゴスボリビアの大統領ともにこやかに話をしていたが・・・。
この他、ボリビアの海で問題発言を重ねていたべネスエラのチャべス大統領もどういうわけか、ラゴスと仲良さそうに写真を取らせていた。
さて、ラゴス大統領の人気が上がって、国民の支持率が70%に近い。テレトンでテニスをがんばったのが好評につながったと言われるが。


(経済)
1)輸出
チリの今年の輸出額は11月までで歴史的記録を示し、年間では昨年の50%アップにまで達するだろうと見られている。銅価格の高騰がその一因だが、それにしても輸出の伸びはすごい。

2)エネルギー源
今年の冬はアルゼンチンから来る天然ガスの供給削減で、チリ社会は大きな問題を抱えましたが、それを避けるため真剣に他の熱源が探されています。
最近の数字ではチリのエネルギー源は水力発電が全体の58%、石炭は12%、天然ガスが25%そしてその他5%となっています。
このうちの25%を占める天然ガスですが、識者の意見では、アルゼンチンはまだまだ発掘されていない油田をもっており、距離的に近いことから来るメリットもあり、長期的に見るとアルゼンチン産ガスの締め出しを図るべきではないとしています。

(一般)
1)外国での治療
今週、ペルーのタクナ(チリとの国境の町)で歯の治療を受けていたチリ人の幼児が麻酔薬の関係か、死亡した事故がありました。少女はチリ北部の町イキケから来ていました。
で、タクナにはまるでショッピングセンターのように診療所が軒を連ね、患者の多数がチリから来ているとか!盲腸の手術、整形美容、堕胎まで患者争奪の宣伝合戦をしているらしい。
確かにサンティアゴから近いアルゼンチンのメンドーサに美容整形をするため患者が押しかけると言う話も聞く。つまり為替の交換がチリに有利なので、医療、治療、療養などチリで診てもらうより外国に行ったほうが安くなるため。
ただしレベルは今ひとつのようで、盲腸など内臓の摘出にあたって手術が適正に行われず、生命の危険があることもままあるらしい。
さてそのペルーの歯科診療所は閉鎖になるだろうとのこと。

2)首都圏高速
いよいよ威力が出てきましたね。仕事が終わってから私は会社のバスで、この高速を使ってサンティアゴの地下鉄の駅まで出ますが、今まで30分以上かかっていたのに、今では15分ちょっとになりました。すごい!

3)住みやすさ
チリの風その99で、世界の国の住みやすさのランキングのニュースをお伝えしました。チリ(31位)は日本(17位)よりかなり下にランクされていました。
それに関して北海道のCITYDEさんから、質問がありました。チリのほうが住みやすくないのかって。
で、それ以降、この短いコメントを書くのにずいぶん時間がかかってしまいました。私は、普通は、走るのも書くのも早いのですが。
A)チリに滞在しただ駐在員とか学校の先生が、離任するとき、大多数が、チリは良いところだった、もっと住みたかったと言われます。
そうかやっぱりチリのほうが日本よりすみやすいのか。
しかしそうかな?彼らはチリ人の平均よりずっと高い生活水準です。よくチリ人から、それくらい給料をもらえば、私たちだってチリは良い所だと言えるはずだと聞きます。(彼らは生活が苦しいので素直にチリは良い国だといえない)
B)さて確かに日本の方がチリより国力はある。一人当たりの国民所得は、日本はチリの10倍近くになっている。従い、日本人のほうが購買力はある。したがって、生活用品の購入や、一般市民が気軽に旅行に出るのは日本のほうがはるかに簡単に出来る。しかし日本の物価はチリよりはるかに高い。
それから、たしかに世界労働統計で、ラテンアメリカは半数の人間が貧困層の所属しているがチリはその状態を脱している。隣国の苦しみのレベル克服してしまった。
C)そういった価格、物価、収入のレベルではなく生活全般でどうなのか?
気候で言うと日本の蒸し暑い夏より、からっとしたこっちの夏は気持ちよい。しかしサンティアゴには冬場のスモッグがひどい。チリの自然は日本のそれにまさるとも劣らないほど素晴らしい。まぁ引き分けかな。
日本よりチリの方が住みやすいと思われるのは、個人の自由ではないでしょうか?日本の社会は融通がきかない。社会の枠組みに縛られて自由に生きていけない。集団自殺とか、引き篭りなどはチリには無い。
確かに日本のように長時間働いて家族との生活が少ないと言う例は少ない。
それから数字の上ではチリのほうが貧乏ですが、貧乏だからと言って幸せになれないことはありません。チリでは貧乏でもちゃんと夏のバケーションに一家で海辺に行ってすごします。テントを持っていってホテル代は払わない。炊飯も出来るだけ自分たちでして費用を下げるのは当然。日本人ではこうはできません。
で、貧乏でも幸せに見える人は多い。そんなことは他人に分からないと言うのは事実ですが、幸せに見えると言うだけでも値打ちものです。
しかし近年の犯罪率の増加は、残念ながらチリを平和安全な国というイメージから遠ざけています。
E) 私はチリのほうが日本より楽しく生きていけると考えていますが、個人的な見解で、何ら客観的根拠のあるものではありません。ごめん、チリの方が住みやすいという理由を上手く説明できていない・・・。

4)鮭
北海道にお住まいの読者から連絡がありました。5日の北海道新聞のトップに「鮭立国チリ」として紹介があり、その基本技術が北海道のものと言う記事だそうです。しかし北海道はシャケ、チリも鮭、いいですね、姉妹関係?が出来て。

5)願掛け
日本も神社に行って願掛けをする習慣は昔からあります。カトリック信者もそういうのが好きです。この8日は聖女マリアの祝日です。その日、カトリックの信者は教会に願をかけにいきます。サンティアゴの場合はロ・バスケス教会になります。そこは距離にして70Kほどはなれていますが、多くの人が夜を徹して歩いていきます。去年かけた願がかなったので、御礼に行くといったぐあい。歩くと18時間だそうですが、その巡礼者が列を作って歩いている様子が、テレビのニュースに出ます。そしてその教会につくと入り口から祭壇までひざまずいて歩きます(わざと苦しむわけですね)
ところでその人口1万人くらいの町に、その日は35万人とか言われる人出があるので(日本でいうと元旦の初詣のような感じ)翌日、教会近くはごみの山です。もともとチリではゴミはどこへでも捨てる人が多いのに、ゴミ箱がちゃんと設置されていないので、しようがなくゴミをそこら中にすてます。で、ゴミ山になるわけ。そこの町長が、アルバイトを雇っても、このゴミ山の処理に1週間もかかりそうだ、頭が痛いと嘆いていました。

6)ガソリン価格
ドルがペソに対して弱くなっていることから輸入物価の値段が下がってきています。ガソリンの値段も来週から1リットルで40ペソも下がるらしい。バス代も連動して下がらないのかな?

7)イースター島の交通事故
イースター島には道路は18kしかないのに今年に入って56件の交通事故が記録されています。野生の馬との衝突、無免許運転、アルコール飲酒などが原因ですが、車の運転免許も取らず日常的に運転するなど、この島でなければ考えられない状況とか・・、さすが。


(スポーツ)
1)サッカー 準決勝はコブレ・ロアがカラマでコロコロに楽勝。週末の第二戦サンティアゴの試合も引き分けで決勝進出を決定。もう一方はカトリカ対ウニオン・エスパニョーラが対決中。
チリの人気チームのチリ大学はウニオン・エスパニョーらに負けたわけですが、おさまらないファンが、その敗因を作ったある選手の車のタイヤをパンクさせる腹いせをしています。
さてその決勝に進出したコブレ・ロアの監督はネルソン・アコスタと言いますが、彼は先年このチームを率いてチリ・リーグで優勝しています。その
あと隣国ボリビアのナショナル・チームの監督になったのですが、ボリビアの宿敵チリを本拠地であるラ・パスに迎え対戦したとき敗退し、首になりました。
で、チリの戻って失業生活をしていましたが、古巣コブレ・ロアが不振から前監督を更迭したとき、その監督に戻ったわけ。彼が復帰してからチームが好調になり、連勝中です。しかし監督を変えただけで、こう成績が変わるのでしょうか?
もう彼のところへ、ウルグアイ、アルゼンチンのチームから乙波が届いているらしい。勝てば官軍ですね。


以上