チリの風  その155 05年12月12日―18日

チリの風  その155 05年12月12日―18日

しかし先週と同じく週日は厳しい暑さが少し和らぎ、最高温度が30度以下の日が続きました。それでも仕事を終えてからサン・カルロスの丘のほうに走って登ると汗がぼたぼたでしたけれど。

週末はいつものような暑い日が戻ってきました。土曜日、高校生たちを連れてプロビデンシア山に登りましたが、天気も最高で、山の上からの景色はいつ見ても素晴らしい(もう少しスモッグがなければ最高なのですが)


(政治)
1)選挙の結果は先週のチリの風でお知らせしましたが、そのあとも連日、これに関連して話題に事欠きません。
与党側は、決勝戦は46%を獲得したバチェレットと25%しか取っていないピニェラの戦いだからね。負けるわけがないだろうとしていますが、ことはそう簡単ではないようです。
選挙が終わってすぐに与党DCの何人かの党員がピニェラ陣営に入ると言う記者会見。DCはわずか数人のことでまったく大勢に影響しないとし、彼らを除名処分にしました。そのメンバーがテレビに出て話をしているのを見ましたが、なぜ彼らがこうした行動を取ったのか、それを全く検討もせず即時除名処分にした現行執行部のやり方が悲しいとのコメントはなかなか説得力がありました。さらにDCの最重要メンバーたるエイルウィン元大統領が、候補者がDCのアルべアルだったら1次選挙で過半数を取っていたのに、社会党のバチェレットだから過半数が取れなかったと厳しいコメント。彼は除名処分になりませんが、バチェレット側にはきついパンチ。この発言の根拠は、今回の国会議員選挙で与党側がとった得票数は過半数の50%を超えているからです。つまり議員選挙では与党にいれながら大統領選挙ではバチェレットに入れなかった層が数パーセント。これが問題。
今回の国会議員選挙でチリ1番の投票数を獲得した元大統領候補で元外務大臣のアルベアルはバチェレット応援の最高幹部に就任しませんでした。これも一度、要請があり、それを受諾したのに翌日、バチェレット側が断った?と言うもの。
候補者側はアルベアルが色々条件をつけすぎたのでお断りしたとコメントしていますが、アルベアルは自分の出来る範囲内でお手伝いさせてもらいますとし、たまには一緒に写真をとらせる程度の協力をしている。しかしもちろん、これは深読みすれば、私のイメージを使ってバチェレットを勝たせる必要はないとの判断でしょう。
国会議員選挙で与党側は過半数を超える得票を得て議会の安定化を果たしましたが、社会党系の2党、さらに弱小のラヂカル党まで議席を伸ばしたのに主要政党のDCのみ議席を減らしています。つまり与党グループの中道が減少、左翼側がはっきり伸びています。このためバチェレットが大統領に当選したら現行の政治経済体制の変更、つまり左傾化が避けられないとの見方が始まりました。
これをDCの一部が問題化し、先に述べた一部メンバーの離脱が起こった訳。
もちろん。RNのピニェラはこれを突き、DC票の取り入れに懸命です。先の数名のDC党員に続き、なんとそのエイルウィン大統領時代の大臣がピニェラ陣営入りを表明。拍車がかかっています。DC崩壊にまで至るかこの問題。
他にも問題点があり、バチェレットはテレビ番組でピニェラの陣営は投票を金で買っていると発言。これは電話代でも電気代でも支払うから投票してくれと汚職行為をしていると言う攻撃。惨めなのはその発言のあと、いや本意はそうではなかったとニュアンスを変え、さらに三転して、彼はそれくらいの汚いことをやる人間だと確認しています。まぁ自陣の参謀が言うとおり発言しているのでしょうね。
悲しい。
しかしこれに対するピニェラもグループが一体化して攻撃に向かっているとは言えません。ピニェラとラビンが獲得した投票率を単純に合計するとバチェレットに勝つのですが、そう簡単に二人の得票が合算できません。先に述べたように、選挙戦で一番いがみ合っていたのが与党と野党間ではなく、野党間の争いだったと言うのがその証拠。ピニェラが勝ったらその後の選挙協力なんてやっていられない、全員バケーションだと言っていたUDIの中心議員がそれを代表しています。
与党側は反撃に出て、ピニェラがいくら立派なことを言っても野党側の第1等は最右翼のUDI、従って彼らを制御できないピニェラのいうことは実現性がない・・・言えてる。
しかしちょっと前まで、どっちが勝ってもチリ社会に大きな変化はないとの見方が、この2次選挙をきっかけに右と左の対決が進むのとの見方に急速に変わってきています。ほんの30年前、アジェンデを生んだ国ですから、同じことを繰り返す素地はもちろんあります。チリ人は記憶力が悪いと皮肉る人が出てくるのは当然のことでしょう。
(私はそうならないことを願いますが・・・)
それから共産党系のグループはバチェレットに私たちの票がほしければ次の交換条件を認めるようにと種々の条件を突きつけました。
なにしろ5%の投票ですからね、確かにほしい・・・

2)軍備拡大
オランダからF16戦闘機(中古)を18機購入決定。これは先に決定したアメリカからF16(新品)10機に追随するもの。さらに同じオランダから巡洋艦2隻も購入決定。お金があるのでどんどん航空機、船舶などを購入し軍備拡張に走っています。もちろん政府はこれは既定の方針であり、さらに旧型機との入れ替えで軍事拡張ではないと当然のコメントをしています。

3)隣国の話
フジモリは相変わらずサンティアゴの刑務官学校の宿舎に閉じ込められていますが、ほとんどニュースにならないのは先週と同じ。
それでもまだペルー側は、誰とも面談させないわけにはいかないかとチリにクレームしています。とにかくペルーから彼に会いに行って、その指示を受けて帰ってくるのが不愉快との心配でしょう。今週のチリの新聞ではチリ日本大使館の人間が会いに行ったとされていますが、差し入れにでもいったのかな?彼は小泉の友だちだったのでしょうか。日本政府の動きが読めないが、フジモリを使ってチリとペルーにどう対応しようとしているのか?単純に波風を立てて喜ぶ小泉ではないでしょうから。
さてペルー側はフジモリに対する訴訟内容を吟味し11件が訴訟に値するとしていますが、現在チリでピノチェットを訴訟しているよりまだ根拠が薄弱との印象を受ける。マァなんでもいいから起訴をして彼をペルーに連れ帰り、刑務所に入れてそのままにすると言うのが作戦でしょうね。通常の裁判になればお互いの弱点を追求しあうことになるので、少なくとも一方的にフジモリがやられることはないでしょうが、放置と言う手を使えば、例えば1年間ペルーの中で彼の名前も出さなければ、フジモリ現象の衰退はさけられないでしょう。
逆に彼のほうは、自分に関連した三つの政党を一元化し、それをバネに大統領選挙に出馬する。そこまでくればペルーの司法なんて扱うのは簡単・・・そう上手くいくかな?(注: 三つの政党の一元化はペルー司法から今週却下されました)
一方、アルゼンチンはこの先どうなるのかなと思わせるほど、キヒネル大統領が思い切った経済政策を打ち出し(他国のことなのでこんなのんきな言い方が出来るわけですが)国が破産するのか、急カーブでピンチを切り抜けるのか毎週、読者を楽しませてくれます。
ボリビアは大統領選挙で、チリと同じく、モラレスがトップでしたが過半数を取れず、大統領決定は持ち越し。


(経済)
1)ペソ高の基調が変わらず、これではせっかくの好調チリ経済に水をさすと中央銀行総裁がドル安を是正する何らかの処置を取るような発言をしました。あまりにペソが強いと向かい風になって国内産業の発展が望めません。銅の価格が異常に高い今は、国庫に入ってくる税収は予定を上回りますが、そんな神風はいつまでも続くわけはなく、国内産業の適正保護は長期的なチリ安定の根源。
その見地からのチリ・ペソの安定が望まれるわけです。
毎週同じ事を書くのは芸がないが、銅価格は今週も高値を更新。ポンドあたり2.1ドルに近づきました。これでコデルコの収入が増え、それを基にした軍事費拡大のための軍事予算が自動的に増大していきます。とにかくチリは世界1位の銅輸出国ですからね。

2)セパルの発表では05年のラテンアメリカの経済成長(予想)は4%超で順調です。最も成長したのはベネスエラで9%、続いてアルゼンチン、ドミニカで、チリは5位の6%でした。同じく06年も同様の成長が見込まれ、チリは3位の6%が見込まれています。

3)チリの家庭の借金は収入の伸びを上回っているとの統計が発表になりました。自分の収入を考えず消費する傾向はなにもチリだけではないかもしれませんが、堅実(ラテンアメリカの中では・・・)と考えられていたチリ国民も見栄をはってしまう弱点がはっきりしたのか?(まぁ家を購入して負債が増えるのは仕方のないことでしょうが、短期負債の増加はたんなる借金付け生活の現れでしょう)
金利と経済の安定性から家屋の購入欲は衰えず、首都圏では05年は前年対比12%アップで終了するらしい。
ところで、銀行のクレヂットカードの例では負債の増加は10年前の4倍、1年前の14%アップだそうで、どんどん買い物をして、それをカードで支払って口座にお金が残っていないということかな?

4)発電に原子力
水力、天然ガス、石炭による発電に加え、チリ北部に原子力発電所の建設を目的とした計画があることを政府は発表。これはバチェレットが原子力発電所の建設は認めないとした政策と全く違っており、新政府が出来る来年3月までに建設調印なんて、せこいことをラゴスがやらないよう願います。


(一般)
1)気候の変化?
第1州から5州の沿岸で従来見られなかった種類の動物(亀)魚(パロメタ)鳥(ガラパゴス・カモメ)や巨大イカが発見されています。海流の温暖化のためと発表されていますが、くらげの大発生なんてどう考えても気持ちの良いものではありませんね。

2)村上春樹の本が紹介されました。ラ・テルセラ誌でほぼ1ページにわたって彼の紹介がされ、彼のベストセラーの中で東京ブルースがチリで発売されたとなっています。記事の始まりは「ゲイシャの話もサムライの話もない。ムラカミの世界にはそんな伝統的な話題は出てこない・・・」でした。

3)万引き
そんなの犯罪の中にも入らないと言われそうですが、選挙が終わった翌日、選出された下院議員の奥さんがスーパーマーケットで万引きをして逮捕されました。すぐに強度のノイローゼとして病院に入院させられましたが、その議員も子供たちも立場がありませんね。テレビのニュースで「議員は選挙運動ばかりに力を入れないで家庭内のコミュニケーションをしなさい」とコメントされて・・・かわいそう。

4)物価
札幌から来た旅行者の清田さんと話していて物価の話になりました。私は当然、チリの物価は安いですねと言うコメントが出ると思っていましたが、彼は以前に来たときは確かにそうでしたが、今回チリの物価の高くなっているのに驚きました。いくらかのものは日本と同じくらいの値段ですよ、それには卵、鮭などがあたるそうです。
ところで日本では野菜などは安い中国品が入り日本産を圧迫しているとか。フーム。
それでもチリの旬の果物の安さは日本ではとてもお目にかかれないものですが。


(スポーツ)
1)国内リーグの準決勝が終わりました。しかし盛り上がりました。とくに1試合目負けているチリ大学(ラ・ウー)は2点差以上の差をつけなければいけないので厳しい状況。そしてなんと1点目は相手のコブレ・サルがマーク。2万人のファンは苦しいうめき声。
しかしここからあの超有名選手サラスが2点続けてPKを決め逆転。(そこまで審判もラ・ウーにひいきすることはないだろうというコメントあり)最終的には4対2で勝ち、決勝進出を決めました。もう一方はカトリカ大学がラ・セレ-ナを1対0で下して決勝進出。大学チーム同士の決勝戦は過去に1度しかないとか。
さてその決勝の1戦目、6万人と満員の観客を集めた国立競技場で18日に行われました。結果は1対0でカトリカの勝利。
ところで試合はホームとアウェーの2試合で行われます。ラ・ウーはホームスタディアムをもっていないので国立競技場を使用しますが、カトリカはサン・カルロス・デ・アポキンドに競技場を持っています。ところが決勝戦にこのサッカー場の使用をラス・コンデス区長が使用許可しません。彼はカトリカのファンですが、使用許可を出しません。なぜならラ.ウーのファンがサッカー場周辺で暴れて近所に迷惑をかけるのがはっきりしているからです。チリで2大人気チームはコロコロとラ・ウーですが、どちらも過激な応援団を持っていて彼らは民家や商店に投石、略奪行為を行うことが多く、嫌がられています。で、この決定になったもの。

2)全体のレベルから行くともう日本サッカーはチリに負けないところにきているでしょう。しかし技術的にはまだチリに部があるかも。
ところで、コンセプシオンのあるチームの選手が金に困って、信号待ちの車の前でボールリフティングをみせて小銭を稼いでいます。
それをテレビのニュースで見ましたが、プロの選手がなんてことをと嘆く人もいるし、実態だからしょうがないと言う人もいます。
本人は、ドライバーからマラドーナより上手いな、がんばれよと言われ人気が上がってきたのを感じますと明るい。

3)登山
しかしルクシックはすごい。いや経済の項で出てくる話題ではありません。スポーツの話。チリ銀行副社長のルクシックは50歳を越えているのに趣味の登山に勢力を費やし、とうとう7大陸の最高峰登頂を成し遂げました。あのエベレストも含んでいるのですからね。チリ人としては二人目だそうです。資金力と運と実力とすべてがそろわないとこんな大記録は達成出来ません。


以上