チリの風  その90 04年9月12日―18日

しかしこのチリの風も第90号になりました。早いものです。そのうち100号とか150号になるのかな?それより前に疲れてしまってやめるかな?
さてチリでは18の真っ最中です。数字で18と言うと日本語ではピンときませんが、スペイン語でDIECIOCHO(18)と聞くとチリ人は胸をはります。わが祖国の誇り、伝統のお祭り、それが建国記念日(第1回国民評議会の開催された日)の祝日なわけです。今年で194回目の9月18日。(今年は3連休でした)
私の働いている会社は伝統行事の好きな会社で、休みに入る前日、事務所の前で、楽団の演奏にあわせて社員の有志がクエッカを踊ります。その前には国歌の斉唱です。(日本の会社で、お祓いをしたり、君が代を歌ったりするのと同じ)その日の昼食はエンパナーダとアサード、おまけにチッチャ酒もついて、帰宅時、飲酒運転にならないのかな?
さて全国各地の公園に出店がかかり、深夜まで食って飲んで踊って、ブラジルなどにくらべるといつも地味なチリ国民ですが、この週ばかりはけっこう派手に飲み食いします。
このお祭りには、飲み食いのほかに運動会のような催し物もあり、地方に行けばロデオ(馬)競技、綱引き、二人三脚、サック(袋)レース、また豚や鶏を放してそれを誰が捕まえられるかなどの遊戯競争も行われます。


(政治)
1)ピノチェット
別にこれが最大の話題じゃないのに、と思いつつ真っ先に書いてしまう。
まるで私はピノチェット・ウォッチャーみたい。それとも隠れピノチェット・ファンか?
彼はまだ裁判所に出頭しません。今週は、身体の調子が悪くて、と言いつつ陸軍病院に入院。逮捕されているわけではないから、病院の中は自由に動けるし、なんだか従業員全員自分の部下みたいなものだから不自由はないだろうし、しかし、彼はチリの法律の外にいる人間だ。
アジェンデ国会議員(故アジェンデ大統領の娘)がブラジルの新聞社のインタビューに答え、ピノチェットは弁護士に囲まれながら、人生の最後を苦しみながら送るのが良いとコメント。波紋を呼んでいます。

2)大統領の恩赦
これが今週のトピックス。野党側が、大統領の恩赦に与った人間の半数以上が麻薬関係者で、麻薬取締りを強化しなければいけない今日、政府のやっていることは社会に逆行していると発表。
政府側はただちに、「選挙が近くなると、選挙民を意識したこういう揚げ足取り的な発言が増える。実態を見てもらえればわかるが、犯人の釈放などをしているわけではなく、刑期の終わった人間の罰金について恩赦をしているだけ。これは貧しい人間はその罰金が払えず、社会復帰が遅れるのを助けようとするもの」と反撃。続いて大統領は「私の政府は悪について不退転の決意で対抗している」と大見得を切った。
もちろん野党は黙っていない。
「恩赦の基準がおかしいことは大統領に恩赦された人間の中に再犯の人間が出ていることでも分かるし、不退転の決意を言うなら、罰金を払い終わらせるまで留置場にいさせること。私たちが政府になれば、そうする」
国民の反応は、大多数が、野党側の理論が妥当と判断しているようです。
さらにまだ問題点が出てきた。飲酒運転で刑を受け、公民権停止処分になっていた社会党の人間が、大統領恩赦により次の選挙に出られるようになりました。政治色が強すぎる??


(経済)
1)エネルギー源
政府はアルゼンチンの天然ガスに頼らない方針を決定し、他の熱源からの電力発電計画を考慮していると発表。しかし政治と経済の綱引きが連日行われているのでしょうね。
これに関連して、ボリビア天然ガス問題がありますが、ボリビが自国産のそれを北米に輸出する際、最短距離のチリを使用せずペルーの港経由とすると決定しました。これに対し、ボリビア天然ガス輸出をおこなっているBP社などが、それを容認せず、計画の中止、さらには事業からの撤退までを示唆。ボリビアはピンチです。もっとも向こうでは誰も本気に?心配していないようですが。
天然ガスは私たちのもの、誰にもこれは渡さないなんて本気で言うのですからね。

2)ガソリンの値段が上がって、バス代も10ペソ(1.5円)上がりました。


(一般)
1)9月18日の最も大事な行事の一つに、チリ・カトリックの総本山であるサンティアゴ大聖堂で大統領以下、政財界のトップが集まって、ミサに参加するというのがあります。その日大統領は宮殿からオープンカーに乗って民衆の声援を受けながら街の中心広場に面した大聖堂に向かいます。
さて今年の大司教説教の中に、司法の停滞、マスコミの腐敗、是正されぬ貧富の差など(表現はもう少し穏やかですが)厳しい表現が続出し注目されました。カトリックの退廃は出なかったようですが。

2)しかし18はチリに取って精神的シンボルだけでなく、消費のシンボルでもあり、なんと肉の消費は通常月の30%アップだそうで、日ごろ値段の高い肉の消費を抑えている貧しいクラスの人たちも、9月のボーナスが出ると、真っ先に肉屋に走るのでしょう。
おまけに夜、どこかに踊りに行くとき、新しい靴をはいて行く習慣があるとかで、靴屋まで売上倍増。面白いですね。
この18の祝日、大型ショッピング・モールは法律で閉鎖を命じられましたが、小型店は通常営業。従業員も18を祝うためというのですが、政府の考え方がよくわかりません。

3)この時期になると良く出る議論ですが、チリの国旗は世界で一番美しいとか、チリの国歌は、国歌コンクールで2位を取ったとか、らちもない議論ですね。
チリ料理はおいしいと言っても、チリ独特の料理ってあるのかしらとなり、カスエラはスペインから、エンパナーダはアラブ、チャルキはペルーとか言い出して、結局チリ独特のものなんかありません。
だってマプチェの人のようにここに何千年も住んでいる人を押しのけて、高々百年単位の歴史の移民が、国の中心になっているのですから、独自色がまだ出てこないのは当然でしょう。
ところで国名チリの語源ですが、私はこの地方の鳥がチリチリと鳴くところからそれを国名にしたと聞いていましたが、最近の説では、これはインカ帝国ケチュア語で最果てを意味する言葉から来ている由。つまりインカはチリを帝国の最南端としてチリと読んでいたというわけです。ほんまかな?

4)18の休みで国内旅行をしているチリ人家族も多いですが、チリの国内旅行はときとして外国に出かけるより高くつくことがあります。外国人に人気のある観光地として紹介されているのはイースター島、第12州のトーレ・デ・パイネ、それに第10州の湖畔地域ですが、イースター島の場合、昨年来た観光客3万人のうちチリ人は7千人、あとは外人。トーレの場合も似たようなもの。
これは費用が高いので一般チリ人は行けないわけです。


(スポーツ)
1)テニス
しかしもうここまでくれば、スポーツと言うより社会現象ですね。この月曜日、二人の金メダリストがUSオープンを終えて帰国。
飛行場からまっすぐ大統領官邸に。沿道を歓迎の人が埋め尽くし、大統領官邸の窓から二人が顔を出すと、広場を埋め尽くした観衆が歓呼の声をあげて。
日本人は熱しやすくさめやすいと言われますが、チリ人もなかなかです。
それだけではありません。その後、野党側の大統領候補ラビンがトップとなっているサンティアゴ区で、オリンピック広場を作り、その開所式に二人が招かれ・・・。
まだまだ、翌日、二人の模範試合が第八州、タルカワーノで行われ、切符を買ったのに中に入れなかった観衆が騒ぎ出したほどの人気???
さらに話は続いて、その翌日、彼らは国会に招かれ、上院、下院のそれぞれでメダルを授与されましたが、国会議員は国旗を振って大はしゃぎ。
まるで彼ら二人といることがニュースになって自分たちの知名度が上がり選挙に有利に働くとでも考えているのでしょうか?
それにしても、連日オープンカー、バスから沿道の観衆に手を振りつづけ、二人は試合より疲れたことでしょう。
おまけ。ゴンサレスのコーチのデ・ラ・ぺニャはアルゼンチン人ですが、オリンピックなどのチリ躍進の立役者として、チリ国民の資格を政府から授与されました。これで正式にデービスカップのチリ監督ができる資格を得たわけです。
さて金メダルの二人にとって次の試練は24日から始まるデービスカップの対日本戦です。チリ国営放送(日本ではNHK)が日本まで行って、対戦国日本の紹介番組まで作っています。テニスのところに唐突に相撲が出てくるのには困惑しました。まるで日本ではテニスの選手は200キロの体重があるのかと思われたり。それも面白いかな?
選手は一人も知りませんが、神和住とか監督は、私も昔からなじみがあります。
ランキング10位対180位では話にならないでしょうが、そこを何とか、日本も1勝くらいしてほしいもの。相手はもう油断しきっているし。
18日の土曜、日本トップの鈴木が来チ。テレビのニュースで大々的に報道されていました。がんばれ鈴木。

2)登山
私はその18にクエッカを踊りに行く代わりに近所の山に登りました。2800mの頂上は強風で寒く、軽装の私たち(日本人4名)は寒さに震え上がりました。しかし18の祝日に登山をする人は私たちだけではなく、老若男女、かなりの人が山登りを楽しんでいました。登頂したのは10名くらいでしたが。
一番、興味深かったのは70歳くらいの老人がひょうひょうと登っており、私たちが9合目付近の岩場で苦しんだのと対照的。人間、鍛錬すればいつまでも人生を楽しめるという教訓を得ました。

以上