チリの風  その89 04年9月5日―11日

最近の日本は地震や台風で大変ですね。我が母校北大のポプラ並木もかなりの被害が出たようです。もう樹齢百年をこした木ですからね。とにかくこれ以上の天変地異がなければよいのですが。
さてチリ。今週の土曜日は9月11日です。昨年のこの日は革命30周年記念日として一週間も前から報道陣が騒いでいたし、右も左も興奮状態でしたが、今年はその気配もなく、まったく平穏に終わりそうです。首都ではそれでも30人ほど騒いで逮捕されましたが、地方はほぼゼロとの警察報告。政治の季節はもう終わったようです。
その31年前のころをテーマにしたマチュカという映画が話題を呼んでいます。
私には31年前の不幸な出来事を繰り返し問題にし、例えばアジェンデの死亡した場所を一般公開し、記念日の11日にモネダ宮殿前に設置されたアジェンデの銅像の前で集会を開き彼の業績をたたえるといった行動には同調できません。彼が、チリの生んだ近代でもっとも民衆に密着した大統領だったなんて言う誉め言葉はまったくお笑いですから。その映画の中で、主人公の子供が、金持ち階級と貧民クラスの人間の両方の生活を経験するのですが、それを見ているだけで厳しいものがありました。


(政治)
1)ピノチェット問題
で、その主役の一人、ピノチェットですが、現在二つの問題を抱えています。
そのひとつはコンドル作戦といわれる軍隊の左翼襲撃事件の責任者として裁判ですが、もう2度も喚問を逃げています。担当裁判官は頭にくるでしょうね。被告側の弁護士がいろいろ注文を出すと、それを容認する形で上司から、訳のわからない指示がくるのですから。
もう一つは不正蓄財の疑いの事件ですが、なんと外国に持っていたアメリカ銀行の全部の口座から、その預金をチリ銀行のニューヨーク支店に移し、またそれを閉めて(全部かどうかは本人しかわかりませんが)なんと裁判官の管理の下に移し蓄財に不正はなかったことを証明する作戦に出ました。これは関が原の島津軍の敵中突破作戦とか、石田三成が徳川側に狙われ危なくなったとき、意表をついて家康の屋敷に逃げ込んだ作戦を思い出させる。窮鳥作戦ですね。裁判官の要請、示唆によるとも言われますが、なかなか良く考えられた作戦。
しかしここで新たな敵が出現。国税庁です。不正蓄財と不正申告による罪から、税金をがっぽり絞り上げようという次第。国税のトップはチリ大学でマスターまで取った人間ですが、左翼政党PPDの関係者。
(チリでは官庁のトップはだいたい政党関係者がなります。まぁ、コネが大事と言う事でしょう)
しかし国税の弱みは、通常調査は過去3年しか遡れないということです。
しかしピノチェット騒ぎは面白いですね。もっとも彼のイメージが日に日に悪くなっていくのは、しようがない。

2)大統領選挙
それより先に地方自治体の首長選挙があるのですが、政府の中では次期大統領候補をどうするかでもめています。野党側はラビンで、統一されていますが、政府側はDC(キリスト教民主党)とPS(社会党)の2女性候補がいて、接戦です。そのうちの一人アルベアル外務大臣(DC)が今週、ある集会で大統領選挙に出馬宣言。一気に盛り上がりました。野党はそれなら大臣を辞任するべしとクレーム。またDCで与党統一候補になりたい、フレイ前大統領もあちこちと揉めて存在をアピール。ラゴス大統領は地方選が終わってからにしてほしいとコメント。


(経済)
1)今週、コデルコ(国営銅公社)のエル・テニエンテ鉱山に行って来ましたが、そこで、「来年から新労働法が発令され最高労働時間が週48時間から45時間に下がる。つまり単純に考えれば、生産量を落とさないためには何%かの労働者を新規に雇用しなければならない、しかしこれを避けるため、労働組合と現行の8時間3シフトを12時間2シフトに変更することを協議しているが組合はこれを拒否」と聞きました。
確かに小さな企業なら、労働時間の延長になって、割増賃金を払えばすむ問題ですが、世界一の地下鉱山では問題も複雑なわけです。ところで世界銀行の調査では、世界でもっとも新規雇用を図りやすいのはニュージーランド、ついでアメリカ合衆国と発表されていますが、日本は10位、チリは15位とか。これが来年は変わってくるのかな?
話はかわりますが、最近鉱山に女性が進出しています。エスコンディーダ鉱山の超大型トラックの運転手にも女性が入っています。
少し前まで地下鉱山には女性は入れないという迷信?があったくらいで、大型機械のメンテ関係に女性が入るなんて少し前には考えられませんでしたが、時代は変わっています

2)ドルが対ペソに弱くなってしまい、なんと金曜日は1ドル617ペソ。ガソリンの値段も安くなったし、銅の値段だけは高値で安定。
チリにとっては素晴らしいことです。


(一般)
1)来週末はチリの建国記念日「18」です。観光地ビーニャのある第5州には70万人の観光客が訪れると予想されていますが、訪問すべきところの中に、このオリンピックで金メダルをとったマスの家族の家とあって笑ってしまった。しかしチリ人もミーハーですね。オリンピックのときはこの家の前に群衆が集まって騒いでいました。それをテレビ局が家の中から撮影していたのですが。
エンパナーダを食べてビノを飲んで、クエッカを踊る。これがチリ人の正しい18の過ごしかたです。私はあまり興味ないけど・・・。

2)地下鉄
地下鉄2号線(南北線)が北方向に2駅延長されました。しかし地下鉄は便利ですね。交通渋滞がなく、どこからどこの駅まで何分でつくか計算できるのですから。バスがこないと待たされることもないし、事故があって前に進まないということも(めったに)ないし・・。
まぁ地下鉄建設のために、ひどい交通渋滞が長い間引き起こされるという問題はありますが。
サンティアゴの地下鉄は札幌と同じく鉄輪ではなくゴムタイヤ方式ですから静かで乗り心地が良いです。


(スポーツ)
1)サッカー
5日の日曜日、待ちどうしかったですね、夜9時になるのが。全国民がテレビの前に座って、もちろん国立競技場にいった6万人は別にして、試合の始まるのを待ちました。ワールドカップ南米予選チリ対コロンビア戦。で、結果は?
翌日、会社に行って昼食時、いつもの職工さんとテーブルに座りましたが、日ごろうるさい彼らが神妙でした。何しろ、地元の試合で0対0の引き分け。負けたのと同じです。私はこの引き分けで、もうチリの将来はない(次のWカップの出場機会を失った)と言っていますが。
で、いつもの通り、無様な試合振りに腹をたてた群衆が街の中で狼藉を働き、商店などを襲う・・・逮捕者をたくさん出して。
しかしサッカーって南米では人気あります。
試合の後、主要選手が公然と監督批判をしました。試合途中の選手交代をはじめ彼はサッカーが良くわかっていないという次第。もちろん、監督はそれらの選手を次の試合には招集しないでしょうし、チームがばらばらでは勝てるわけがありません。

2)テニス
ニューヨークで開催中の全米オープンで、チリのオリンピック金メダル組みがダブルスで準決勝まで進出。わかせましたが、そこまで。
その後は、もうデービスカップの話で一色です。対日本戦、どうなるかな?
その前に来週、マスとゴンサレスの二人の金メダリストが模範試合を行います。おもしろいのはその前座にサッカーのサモラーノが、元チリナンバー1プレーヤーのギルドマイスターと対戦するとか。試合のレベルはともかくファンは喜ぶでしょうね。
マスはトップ10に入ったけれど、9月、10月に守らなければならない点が多すぎて、とてもこの座を維持するのは無理でしょう。

3)オリンピック委員会 
しかしそんなものが、何で金になるのかと思うけれど、今週委員会の会長が辞任しました。アテネオリンピックの最中から、質素な選手に比べ、彼らたちは過分の手当てを得、華美なホテルに宿泊と批判が相次いでいましたが、この他の不正も発覚してアウト。
しかし問題は彼をさかのぼる5人のトップが全員この種の問題でやめているということです。一人なら、どこにでもあることですみますが5人も続けてとなると、もう次の人間もまた不正をするだろうと思うのが常識でしょう。しかし何でそんなにせこい人間が要職につくのか?

以上