チリの風  その127 05年5月30日―6月5日

雨の日はもちろんスモッグが洗い流されますが、その翌日からサンティアゴの空はどんよりです。今週も空気の状態が悪いとして、通常の交通規制のほかに車両の追加制限が加わりました。5日の日曜日久しぶりに山登りをしたら、下のサンティアゴの街がどんよりスモッグの中に見えました。
ところで、山の中であったマウンテン・バイクの青年と話をしていたら、「自分は日本に行ったことがある。そのとき広島も訪問したが、そこで見た原爆記念館が忘れられない。展示品を見て、説明を読んでいると自分の無力感を感じ、涙がほほを伝わって落ちるのを禁じえなかった」


(政治)
1)大統領選挙関連
平穏。まさに平穏。ニュースが全くありません。もちろん何も起こらなかったと言うより、ニュースを外に出さなかったのでしょうね。チリもそういう意味では意外と規制のある国と言えるのでは?(証拠はありませんが、そのうち大爆発が起これば、その事実を隠せずに外に出てくるはず)
例えば、与党DC内の争いは世間に知らせたくないとしているだろうし、RNのピニェラ候補の活躍を報道すれば彼の知名度が上がるだけと報道規制していると私は見るのですが・・・
大統領第1候補のバチェレットは他の候補との討論会を当面拒否。その必要を認めないとコメント。そうでしょうね、世論予想ではもう勝っているのだから。あえて競う必要なし。でもこれだって1面トップで報道すれば、世間は絶対騒ぐはずですが。
ただピニェラに関しての報道では次の点が注目されました。彼は現在12億ドルほどの資産を持っていると見られていますが、もし彼がチリ大統領職につけば、それをブラインド・トラストとしてアメリカで実施されているように、第3者にすべて手渡し、大統領職中はそれに関し一切の決定権限を持てないということにしてはどうかと言われています。世論は金持ちだから大統領になれないというのはおかしいというのと、大統領がランチリ航空を始め数々の会社経営権を握っているのはまずいという意見に分かれます。
それから新聞の日曜特別版でCD党員で元大統領のエイルウィンが、どちらかと言えば(同じ与党グループの)バチェレットより(野党グループの)ピニェラの方に親近感を覚えると発言しています。これも現役の党役員の発言ならそれこそ除名ものですが、わざと老人に何となく言わせているのが曲者。さてどうなるか?

2)人権問題
今週、軍政府時代の秘密警察DINAによる犯罪について(ある期間の犯罪は特別猶予として無罪にすると成立済みの)アムニスティ法案を使って無罪とする判決が出ました。
訴えているほうは裁判所の判決の前に無力感に陥っていますが、弁護側は当然のことですと胸を張っていました。
それからバレチ報告書の追加版が今週政府に提出されましたが、これは軍事政権時代の人権問題を調査したもので今回の追加版の特徴は子供幼児に加えられた虐待報告で、18歳未満の1244例が記載されています。
でもそれを裁判所に訴えでたら、上記のように「残念でした。無罪です」では・・・。

3)隣りの話題
しかしボリビアはどうなるのでしょう。毎週毎週悪い方向に向かっています。チリの報道としてはボリビアを批難する論調より、チリ人がボリビアで困っているというところにポイントあて、政治的な論議に向かわないよう配慮しています。しかしボリビアに入ったチリのトラック300台が戻って来れないと言うのは、人権問題と思いますがどうでしょう。鉱山用のダイナマイトでおまえのトラックぶっとばしたろかと言われた運転手もいるらしい。国会も一時停止。軍のクーデターが噂されて。これで毎日国として巨額の損失が出ていると言われるとそうだろうな、誰がそんなところに投資をするか、旅行に行くか、仕事に行くかと思ってしまいます。


(経済)
1)アジアの3カ国との自由貿易協定締結
前年のAPEC以降に交渉を始めて今回それが実ったというもの
やっぱり日本とは速度が違う。日本の重要性はその3カ国の比ではないと言われても・・・
シンガポールニュージーランドブルネイはすばやい。
しかしチリはアジアに対して南米の入り口として着々と実績を作っています。自由貿易協定のない、日本、中国品は欧州、北米、南米諸国の品物よりずっと高い関税を払う必要があるわけで、チリの貿易相手国としての規模はともかく日本企業の厳しい戦いは当面続く。

2)コデルコ(国営銅公社)が中国のミンメタル社と合意に達し、中国資本を受けて新鉱山の開発を実施、それを中国に販売することになった。年間57000トンの銅を15年間にわたって供給する。販売金額のうち5億5千万ドルは前払い・・・とかの条項らしい。年間約6万トンといえば、チリでは規模から行くと中型の銅鉱山となります。これに関し、海外からコデルコの安定性に寄与すると評価されていますが、国内からチリ国民の会社であるにもかかわらず合意事項が不透明で利益隠しの疑いがあるとの意見も出ています。
そのコデルコは日本のNTTと合弁会社を作って世界の鉱山会社の通信関連事業に進出を計画中。
さて銅の話に戻ると、日本企業もチリの鉱山に積極的に投資していて、今週は住友がアメリカのPDがチリに持つオホス・デル・サラド鉱山の20%を購入と発表されました。もちろん他の銅山にも三井三菱など日本企業の投資は多く記録されています。

3)セルロース工場の環境汚染問題
しかし笑ってしまいました。ある日、その工場が新聞に次のような意見広告を乗せました。「当社は社会の貢献するため日夜努力を重ねています。にも関わらず先日、当工場に反対するグループは当社幹部社員に暴行を加えるなどし、政府また司法から当社の生産が正当なものと認められていることを認識しようとはしません。」
笑った理由はその日の新聞に、同社から発表された当社に非はなかったとするコンセプシオン大学の研究結果とする環境汚染に関する調査が、実は大学ではなく同社が行っていたことが暴露され、政府が困惑しているとありました。これではこの会社も将来が危ないと見ますがどうでしょう。名前をだされた大学が、全く当方は関与していないと声明したのが厳しい。
これ関し、河川の汚染数字を調査したのはその大学、それをまとめたのが当社だから一方的に虚偽の報告といわれるのは認識不足と反撃しています。
これは異種産業ですが、カナダ資本の金鉱山パスクア・ラマの採掘開始にも影響するでしょうね。


(一般)
1)女性判事に疑惑問題
チリの裁判は時間がかかりすぎると批判があり、それを何とか結審までの時間短縮をはかる努力がされていますが、今回問題になっているのは一人の女性判事がなんと昨年12月に2日で841件の判決を出したというもの。スーパー判事として表彰されるべきか、全く調べもせずに個人の好みで右とか左にさいころを転がすように結論を出したのか裁判所内で調べられています。
本当かどうか、裁判の長期化を世間から批難される裁判所は短期に判決を出せばボーナスがもらえる仕組みがあるらしく、この判事はそれを狙って判決の量産をしたのではといわれます。どうかな?

2)陸軍の雪下における死の行進
まだ全員の死体が発見されていませんが、大量死亡事故に関しどこに欠陥があったのか、作戦自体の問題か、それを指示した指揮官の責任か、調査が進んでいます。
また死亡した兵士の家族が陸軍を相手に巨額の補償訴訟を準備中。恐らく数年先に結論が出るでしょうが、その頃、そう言えば昔そんな事故があったなと思い出すのでしょうね。

3)モンテ・ベルデ遺跡
第10州プエルト・モンの近くにあるこの遺跡は1977年から調査が始まり1987年にアメリカ人考古学者が約13000年前のものとし、アメリカ最古の遺跡と発表しています。
ここを遺跡保存委員会を作って保存し一般観光客にも見てもらおうとする運動がはじまりました。保存はチリ南部大学が中心となって検討中ですが、ここを自然公園としその中に遊歩道を作り、それを通って遺跡を見てもらうというもの。完成目標は2006年。


(スポーツ)
1)テニス
フランスでの4大大会ロランドガロスに参加していたチリのダブルスチーム(マスとゴンサレス)は準決勝まで進出しましたが、そこまで。メダルに手は届きませんでした。
2)サッカー
A)しかし日本がバーレーンに勝ったようにチリもボリビア戦をホームで戦い3対1で勝利しました。それぞれのゴールに、私は礼儀正しく窓を開けて外の世界の皆さんに大声でチリのゴールをお知らせしました(アパートの管理人から注意が来なかったのは彼もテレビの前で叫んでいたからでしょう)
何年間もナショナルチームでゴールできなかったサラスがやっとゴールし、サモラーノを追い抜いてチリの国際試合での得点王になりました。ゴールをしたとき、彼は確かに泣いていました。
B)一方、来週と開催が近づいた20歳以下のワールド・カップの方は、チリ代表は愛知で日本代表と引き分けたあとドイツに渡り、そこでドイツ代表と対戦。なんと3対2でこれを破る健闘。もしかすれば本大会でもいけそうです。
C)ところで最近終了したスペインリーグで3位になったのはビジャ・レアルと言うチームですが、そのホームタウンは何と人口5万人の町。最後のホームの試合には約3万人がサッカー場に押しかけたというのはまさに奇跡的です。弱かった無名のチームが今年唐突に3位まで上がったのは、今年から監督に就任したペレグリニのお陰といわれますが、その彼はチリ人です。
今までチリ人で最も成功した監督といわれる彼の株は上がる一方で、有名チームからも乙波が来ているとか。勝てば官軍ですからね。
いつかはチリナショナルチームの監督でしょう。


以上