チリの風  その126 05年5月23日―29日

天候不順で、季節の変わり目なのでしょうか、近年になく風雨の多いこの頃です。もちろん平年の降雨記録を大きく破っています。そんなわけで山登りは最近していませんが、雪のアンデス山脈を見ながらマラソン練習は続けています。
南部では、陸軍の惨劇があったところを始め、大雪や大雨で孤立している地区が出ています。
このように毎日の天気は雨が降ったり止んだりですが、政治の世界はさらに強烈で地震続きです。


(政治)
1)先週のチリの風で、第4の大統領候補ピ二エラの活躍で大統領選挙が面白くなってきたと書きました。それに続いてキリスト教民主党(DC)の内部争いが表面化かと書きましたが、なんとそれがぴたりと当たって、DCの大統領候補のアルベアルが突如選挙を降りました。その理由が自党の応援が得られないというもの。もちろん、DC内部の権力闘争がそう仕向けたわけですが、外部には顔向けの出来ない醜聞。私はこれを理由に現党首関係の違う候補を出すのだろうと見ていますが、今のところ、与党のもう一人の候補者バチェッレットを推すことにし、その替わり、上院下院の選挙でDC候補の数を増やしてほしいと駆け引きしている様子。
そんな単純な商売で自党候補を下ろすかな?党内の人気はアルベアルに集まったので、その時点では彼女を出すしか手はなかった。しかし予備選挙期間に彼女を応援せず、孤立無縁の戦いをさせ自滅させる。そこで他の候補が無理なく立てるという筋書き。違うだろうか?
それにしても30年前、アジェンデが候補者の時期、DCと社会党犬猿の仲で憎しみあっていたわけだから(もともと考え方が違う)、今は与党の同じ傘の中にいても上手くいかないのは当然。
中道のDCが与党を出て、野党の中道派RNと組むのが思想的には順当。それがピ二エラ候補の狙いなのですが・・・・
さて大統領候補をおりたアルベアルはサンティアゴ東部区の上院議員を目指すといわれます。これが決まると、当然彼女は選挙に勝つだろうから上院議長職が目の前ですね。

2)お隣りさんの話題
どういうわけかペルーのトレド大統領がチリとの懸案事項は存在しない。ラゴス大統領は私のアミゴだと発表。この裏にはどんな取引があったのでしょうか?先週まで敵だったのが急に友だちですからね。

ボリビアの方は相変わらずしっちゃかめっちゃかで何をしたいのかどこが問題なのかさえさっぱりわからず、サンタ・クルスなど早くこのアホな国と決別したいと言ったりして大変です。そこはブラジルやアルゼンチンと接触が多いから、どっちかの国と一緒になるかな?その前に、もちろん、内戦でしょうが。

もう一つの隣国アルゼンチンは5月にキヒネル大統領就任3年目を迎えましたが、これまで気合の入った借金踏み倒し作戦で世界を驚かせています。この大統領は自国のカトリック教会と敵対したり、ブラジル政府と紛争を起こしたりと問題を抱えていますが、自分の道を歩くというその姿勢はいかにも唯我独尊のアルゼンチンらしい。あかん、私に誉められる?ようでは、彼のグローバルな世界での評価は低いだろう。


(経済)
1)日本チリの自由貿易交渉
すでにチリは北アメリカ、欧州などと自由貿易協定を結んでいます。さて先のチリで開催されたAPECで小泉首相が対チリ政策で中国に先を越されてはいけないと本気で交渉するよう関係者に言明しましたが、それを受け今週チリのエイサギレ大蔵相が訪日しています。チリ側では、「日本という国は長い期間を見通して商売する国だから、とにかく気長に待たなければならない。早急な進展はない」と報道されています。チリ人もちゃんと日本の体質を分かっているわけです。
さていつまで待たなければいけないのかな?

2)為替レート
チリペソと米ドルの為替レートが1ドル580ペソになってからずいぶん立ちますが、ほとんど動きません。ドルが動かないのか、ペソが動かないのか、それともドル・ペソが連動して上下しているのか専門家の間でも意見が分かれていますが、為替が安定しているのは、商売にとってありがたいことです。
05年のチリ経済は昨年同様好調で最初の3ヶ月の成長率は5.7%と建築業界を中心に投資の伸びは目覚しく、1−3月で26%アップと予想をはるかに上回っています。そして貿易も堅調で輸出は7%、輸入は22%のアップです。もちろん中国ブームがいつまで続くかでチリ経済の堅調、好調が大きく変化するわけで、他国頼みの構造は変わっていませんからあまりえらそうな事はいえません。

3)セルロース工場
首黒白鳥の大量死で問題になったバルディビアの工場は閉鎖にならずにすみそうです。わずかな罰金と生産量を20%下方修正させられるとかの、白黒をはっきりさせないあいまい決着になりそうです。

3)チリのワイン
世界的に有名になったチリのワインですが、生産量から行くとまだ世界8位です。ただ国内消費が多くないので輸出量では6位にあがります。
しかしワインも世界的に見て消費量より生産量の伸びが大きく競争はますます激しくなりそうです。


(一般)
1)雪の惨劇
チリ中の注目を集めた先週の陸軍の雪中行進事件は一応決着がつきました。433人の部隊が第8州アンツコ練習地で訓練を終え基地に戻るための行進途中で、吹雪に見舞われ95人が行方不明、そのうち45人が死亡しました。ただし11人はまだ死体が発見されていません。
陸軍長官は作戦自体に問題はなかったが、実行に問題があったと発表。政府はこれを支持したので長官の責任問題はないようですが、現地の責任者が自宅にて逮捕状態になったあと現在陸軍病院に収容されています。裁判の結果では最高10年間の懲役が課されることになるとか。被害者の家族が裁判所に訴える準備中。
しかし同じグループで行進していて、助かった人間と死んでいった人間の間にはほんの少しの差しかなかったはずですが・・・。
この事件で死亡した兵士の家族に約百万円の一時金と月額約4万円の年金が支払われるそうです
生き残った兵士は、当初基地の外で家族との滞在を認めら得ましたが、事故後5日で全員が基地に戻りました。基地に戻りたくないと思ってもやはり脱走は重罪ですからね。
しかしこの問題の最後には現在の徴兵制の廃止(志願制への移行)に行きつくでしょう。
ところでフィリッピンで見つかった(と言われる)旧日本兵のニュースがチリでも大きく報道されていますが、チリの山の中に逃げ込んで20年くらい出てこない兵隊もいるかな?

2)酒タバコの問題
収入別にアルコール中毒、たばこ中毒のパーセントを調べた結果が報告されました。アルコールは収入の多い層に問題が高く、タバコは収入に関係なくすわれていることが分かりました。
タバコを吸っているのは全体の45%、また飲酒の嗜好を持っているのは平均で60%、そのうち60万人はアルコール中毒とか、そこまでいかなくても青少年で15%が何らかのアルコール問題を持つとか、いやはや。
これには直接関係ないけど、AIDはチリでは10万人に71人、人口の39%は体重が適正でなく(過重)、81%はほとんど何も運動をしないとか。チリ社会の現状が浮かび上がる。政府機関もその対策を急いでいますが。

3)大学生の反乱
奨学金の改善を要求して政府と対面している学生組織が各地で大学の本部占拠を繰り広げましたが、チリ大学などはこれを刑事事件として裁判所に訴えることにしました。文部大臣は一部大学の学長は学生に同調して政府を批判しているとコメントしていますが、大学問題は古今東西、難しいものです。そういえば、日本ではもう大学封鎖なんてやらなくなったのでしょうか?70年代はどこの大学でもありましたが。

4)文化財の保護
イースター島のモアイとかを保護する法律が出来ました。それによると文化財を傷つけた場合、15万ペソから1500万ペソ(約250万円)の罰金が課せられます。もっとも罰金が大きいのは許可なく実行される考古学的遺跡の発掘です。
これに関連して、有名ではないが価値のあるものとしてチリ各地の遺跡、名所が紹介されていますが、その主なものとして北部ではチリ硝石をとっていたハンバーストン事業所跡とかチウチウのカトリック教会、南部では11州の海岸で大理石が削られて城のようになったカピヤなど、合計10箇所があげられています。
私はそのうち4つは見ましたが、まだまだ足りませんね。


(スポーツ)
1)チリにはスポーツといえば、サッカーしかないのですが、そのサッカーが弱いため、国民の不満は高まるわけです。
さてチーム別のラテンアメリカカップとなるリべルタドール杯で2回戦に進出していたチリ大学チームはホームでは何とか勝利を収めたものの敵地で惨敗し、得失点差で3回戦(準々決勝)進出は出来ませんでした。ところで準準決勝進出チーム(8チーム)の内訳はブラジル、アルゼンチンが夫々3チーム、それにメキシコが2チームとなっています。つまりその他の国には有力チームがないということでしょう。悲しい。

さて次のワールドカップの南米予選は6月ですから目前に迫って来ましたが、得点力のないチリにとって最高のニュース。不調続きで引退まで噂されていたアルゼンチンでプレーするサラスが上記のリベルタドール杯2回戦のホームの試合でなんとハットトリックの大活躍、チームを準準決勝に導きました。彼が活躍すると南米予選の次の試合(ボリビア戦)は楽なのですが。
一方20歳以下のチリ・チームは日本で日本代表と対戦し引き分けました。どちらの得点もヘッディングの見事なものでした。練習試合ですが引き分けでよかった・・。
この豊田市での試合にチリ応援団が競技場に30人ほどもいたらしい。そうか日本にもチリ人がいるのか。驚いた。
さらに驚いたのはその後のキリン・カップでアラブ首長国チームと対戦したペルー代表の応援団がなんと3千人とか?
そうか日本にはペルー人はそんなにいるのか!

2)テニス
しかしドイツでの国別対抗戦でアルゼンチンに敗れて決勝進出を逃したチリですが、今週はフランスでの4大大会に参加。マスは1回戦で惨めに散ってしまう。一方のゴンサレスは1,2回戦は無難に勝ったのですが、3回戦に現在の世界1位フェデレールと対戦しアウト。上位進出は出来ませんでした。
ただこの二人が組んだダブルスは勝ち進んで準準決勝まできました。


以上