チリの風:番外編「チャチャポヤスの旅(その1)」 2018月12日―17日

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ゴクタの滝遠景
私がペルーに住んでいたころ、1978-79年にクスコにいたのだが、ゴクタの滝は知られていなかった。もちろん地元の人はその大きな滝を知っていたが、それが他の地方の人にまで伝わっていなかったわけだ。その滝が世界に知られるようになったのはわずか10数年ほど前のことだ。2002年にドイツ人探検家が滝を発見、2006年にナショナルジオグラフィック誌に発表されて世界に知られるようになった。最初のころ、この滝は世界3番目に落差が大きいと言われていた。
その滝をいつか見に行こうと思っていたが、その機会がなく、月日がたっていった。そして今回、その機会が巡ってきたわけだ。今回の旅の目的はそのゴクタの滝とチャチャポヤス王国の首都クエラップ遺跡を見ることだった。運があって、目的を達成し、病気・怪我がなく無事にチリに戻ることができた。さてどんな運があったのかな?

滝を見る基地になるチャチャポヤスは素晴らしい町だった。しかし、そこまで行くのが厳しい旅だ。詳しく順を追って説明すると、私の場合、隣国チリに住んでいるから、まずサンティアゴ・リマの国際線に乗る。そこで入国手続きを済ませ、国内線で北部のチクラヨに飛ぶ。夕方、そこに到着するから、その日の夜行バスでチャチャポヤスに向かうことになる。
と言うのはリマからチャチャポヤスへの飛行機便がないからだ。昔は直行便があったのだが、2003年に飛行機が墜落し乗客全員が死亡と言う大事故が起き、路線がなくなってしまった。現在は小型飛行機の便は時々、飛んでいるようだが、それに乗るつもりはなかった。旅から戻ってから分かったのだが、リマからハエンまで飛行機で飛ぶと、チャチャポヤスまでのバスの時間は半分以下になる。次回はそれを使いたい。
さて私の乗った月曜日朝のラタム航空のリマ行き便は出発が遅れた。機長のアナウンスでは飛行機のメンテナンスに少し問題があり調整中とのことだった。これでは接続便に乗り遅れるかもしれないと搭乗員に相談すると、その場合はリマで当社の社員が入国手続きの迅速化の手伝いをして接続便に乗れるようお手伝いさせてもらいますとのことだった。結局は何とか接続便に搭乗できた。
到着したチクラヨの飛行場からタクシーでバスターミナルに直行し、座席の予約を済ませる。そして荷物を預けて街に出る。そこはペルー北部で一番大きな街だ。バスの出発まで2時間ほどあるのでゆっくり食事がとれる。
ペルーに無事に到着したことを妻に連絡しようとすると携帯がうまく機能しない。チリ・ペルー間は電話の国際ローミングを使うことになるが、チリの私の携帯電話の会社に相談に行くとワッツアップを使えば国際電話を使わなくても両国の間でコミュニケーションが取れるとのことだった。それを使うと費用は全く掛からないとか。しかしその機能が何かの理由で使えなかったわけだ。街を歩いているとインターネット屋を見かけたので中に入る。Eメールで彼女に到着を報告するつもりだった。ところが私のメールに入れない。仕方なく外に出る。通行人に公衆電話の店・機械はないかと聞いて、教えてもらったほうに歩くと、確かに公衆電話があったが、昔日本でよく見かけた機械だが、コインで使うその電話でチリを呼び出すのは難しそうだった。 
これでは1週間、彼女と連絡が取れないことになるのかと心配しはじめた。チリ側でも私の安否がわからないと落ち着いてはいれないだろう。
仕方なく、夕食を食べるレストランを探した。晩御飯は魚料理にした。鱒だったが、おいしかった。野菜サラダに入っていたが、久しぶりにバナナのフライを食べた。その後、ミネラル・ウォーターを買おうと歩いているとスーパーマーケットが見つかった。なんとチリ資本の店だった。そこに入ると私の携帯電話の会社の店も入っていた。そこで、店員にここペルーでなくチリだが、私はこの会社のサービスを使っていると話してから、機能がストップしていることを伝えると、技術者が私の携帯をいろいろ調べて、はい、機能するようになりましたと戻してくれた。つまり全くの偶然だったが、その事務所を見つけ、携帯が使えるようになったわけだ。      
そこで、嫁さんに安着を連絡する。これ以降、ペルーにいる間中、彼女と電話や文書・写真のやり取りが自由になった。運があったわけだ。

さて出発の夜8時15分が近づいたのでターミナルに戻る。自分の荷物がそのバスの荷物庫に積み込まれるのを確認する。そしてバスに乗り込んだ。足が伸ばせる座席だった。   
バスは10時間走り、翌朝早くチャチャポヤスに到着。
その路線を走るバス会社は数社あるが、朝や昼の便はなく、すべて夕方・夜のサービスになる。8時、9時ころの出発。逆に向こうからチクラヨに戻るバスも同じく夜行バス。もちろん通常より広い空間を取った座席だが、ゆっくり眠れるわけにはいかない。バス代は15、20ドルくらい。戻りは朝のバスで景色を楽しみたいと思ったが不可能だった。しかしどうして昼間に走らないのか不思議だ。

インターネットでその町にある二つ星ホテルに1泊予約を入れていた。そこは町の中心のマヨール広場の近くだった。火曜日の朝6時半ころにバスターミナルで降りるとタクシーの運転手が近寄ってきたが、歩いていくことにする。住所がわかっているから、問題はない。歩行している人に道を聞いて10分ほどでそのホテルについた。  
まだ雨は降っていなかった。天気予報では火曜・水曜・木曜と3日連続で雨になっていた。今回の予定ではその日は一日、体力の回復を待つことにしていたが、雨が降っていないことを利用しないわけにはいかない。ホテルの受付にどこでゴクタの滝ツァーに申し込みできるか聞いてみる。するとここでできますよとのこと。早速、申し込む。8時出発だった。

普通ホテルは11時ころに入室可能になるが、そこは部屋があったので、すぐに鍵を渡してくれた。朝7時ころ部屋に入ってベッドに寝転ぶ。1時間ほどゆっくりできたのは幸運だった。
昨日の朝7時はサンティアゴの家の前でタクシーの来るのを待っていたが、一日たった今日はチャチャポヤスのホテルのベッドの上で休んでいた。すごい変化だ。
山歩きができるよう、登山靴に変え、登山用ストックをもって待機した。8時になってもツァー会社から連絡ないので、ホテルの人間が私を連れて外に出た。2,3ブロック歩いてその小型バスが停まっているところに着いた。しばらく待って、合計10数人で出発。ツァーと言ってもここから滝のある村コカチンバまで一緒に行くだけで後は各自の速さで歩く。同乗した人間が、歩きなら往復6時間ほど、もし馬に乗れば歩く時間は半分になると説明。10ドルほどの価格とか。3分の1ほどの人がそのサービスを申し込んだ。私はサンティアゴでアポキンドの滝までの7時間コースを何度も歩いているから6時間コースは問題ないと考えたが、昨日は一日乗り物に乗っていたから無理はできないと考え、最初のルートは馬でトレッキングをすることにした。  
1時間ほどでコカチンバ村に着いた。村から遠くにその滝が見えた。滝を見たとき、背景の山も入れて昔、行ったエンジェル・フォールに雰囲気が似ていると思った。
滝までの距離はその村から5キロ強とか。

その村は、観光で成り立っているようで、ホテル・レストランが多くあった。私が払ったツァー料金(約20ドル)には往復のバス代、公園入園料と昼食代が含まれていた。
馬の方が足が早いので先ず馬に乗るグループが出発、その次に歩きのグループということになった。私は馬に乗ったことはほとんどないので馬に乗ってから馬をひくおばさんに何度も注意をされた。右に寄りすぎとか、肩に担いだ荷物を後ろに回せとか。途中で、これなら歩いたほうが楽かなと思うこともあった。滝までの半分くらいのところで馬を係留する場所があり、そこでおしまい。あとは歩くことになる。
雨は降っていない。もちろん雨に備えてビニールの合羽、傘も用意していた。
上り下りはあるが、全体的には滝底に向かって降りていく。滝の高さは771メートルで、村から見たとき、滝の真ん中くらいが正面に見えたから、このルートは約400メートルを降りることになると思った。普通の山歩きなら道を間違える可能性はあるが、ここは一本道で間違いはない。
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ゴクタの滝への道
私は一人でコツコツ歩いた。列を作って歩くと言うほど滝へのトレッカーはいない。森の中を歩くという雰囲気で気持ちは最高になる。滝が近づくと緊張・興奮してくる。
滝が見つかったころは道なんかないから最初の探検家は滝まで厳しい歩きを強いられただろうが、短い期間に道の整備はされていて私たちにはそんな問題はゼロだった。ほとんど疲れも感じず快調に歩いた。木々の間を歩くと言う素晴らしい場所で1時間ほどの歩きで滝の近くに着く。数人のグループが写真を撮っていたので、私が彼らの写真を撮ると、その一人が私の写真を撮りましょうと言ってくれた。
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ゴクタの滝と私
    
滝つぼ近くでは滝の水が霧雨のようになった。あまり濡れるのは嫌だから、すぐにそこから離れた。少し離れたところから見ていると、滝に到着した喜びがあふれてくる。誰でもいつでも来られるところではない。世界3大瀑布のナイアガラ、イグアスそしてビクトリアの滝に加え最も高いところから落ちるエンジェルフォールも見に行ったから滝シリーズは完成しているが、ここで南米の星のゴクタの滝もこうしてやっと見ることができた。
この滝を訪問するなら滝の水量が増える雨季を勧めると本には書いてあるが、雨の中を歩くのは気が重いから、私は乾期を選んだ(雨季は12月から3月)。それにもかかわらずその週は毎日雨の予想だったから、雨季の雨の量は相当のものだろうと想像できる。何しろ、雨季ならゴクタの滝の周りに10,20の小滝ができるとか。乾期のその日はゴクタの滝の左側に小さな滝が一つ流れているのが見えた。
ゴクタの滝の水が流れる川を上から見たが、水量は少なく、サンティアゴのアポキンドの滝の水量より少ない気がした。確かに滝つぼにたまっている水量は少なかった。それは滝の水が途中で蒸発するからだろう。
戻りは登りが多いので往きよりペースは落ちるが、馬の待つ場所まで順調に歩く。数頭の馬が帰りの準備をして待っていた。私は一番先に着いたので、あとの人が来るのを待たず直ぐに出発する。同じ馬だったので癖が分かり、右に曲がるときは身体を右に傾けると馬が言うことを聞くのが分かった。上り下りのきついところは馬も嫌がるのが感じられた。水があると馬は止まって水を飲んだ。途中、馬が停まるとおばさんは怒って、馬を紐でたたいた。滝の近くで休んだのを入れて合計5時間弱で村に戻ってきた。
決められたレストランで一人で昼食をとった。鶏の料理だった。
帰りは何時と決められた時間ではなく、全員が滝の旅を終え、昼食を取り終えたらチャチャポヤスに戻ることになる。バスは到着してから約6時間後に出発した。つまり全員が5時間ほどで歩き、その後レストランで食事をしたことになる。
往きのバスより帰りのバスの方が疲れていたのにのんびりしたのは気持ちのせいだろう。
滝歩きツァーの1日中、雨は降らなかった。なんという幸運だろう。

町について、グループの仲間と別れる。先ずホテルに戻って荷物を置いた。
もちろん、少し休憩した後に町の中心のマヨール広場に歩いた。この町をもっと知るためだ。そこでカトリックのお祭りをしていた。何とかと言う聖女のお祝いだ。サンティアゴなら聖カルメンの祭りだろう。お祭りに参加して踊っている人とそれを観覧する人の中に入って雰囲気を楽しんだ。
食事の後、ホテルでコーヒーを飲んだ。ゴクタの滝に行くルートの途中で、コーヒー・ルートの宣伝がしてあった。この近くでコーヒーの生産がされているのだろう。クスコの近くでもそんな村があり、そこで生産されたばかりのコーヒーを飲んだことがあるのが懐かしい。この原稿を書いているとき、ペルーのコーヒーを飲んでいる。インスタントコーヒーではなく豆をつぶしたコーヒーだ。

さてこのホテルの受付の人間と親しくなり話し込んだ。私は「このチャチャポヤスが気に入った。ここはクスコにも劣らない素晴らしい町だ。数年後には観光客が押し寄せるだろう。つまり観光業には明るい将来が待っている」とコメントした。その前にリマに行く飛行機で隣に座ったチリ人と話し込んだ。彼は発電の仕事でチリ中を回ったと言うので、私もタイヤの仕事でチリ中を回ったと言うと一層、話がはずんだ。それから、滝行きのバスでは隣の席のイギリス人夫婦と話をしたのも楽しかった。そのイギリス人はもう一度EU離脱の是非をする投票があれば間違いなく共同体に残るだろうとコメント。私はイギリス人は間違った判断をしてしまったのですねと辛口批判。
こうして知らない人と一生に一度の会話をするのはうれしいことだ。
その晩はホテルでゆっくり眠った。