チリの風  その243  07年10月1日―7日

チリの風  その243  07年10月1日―7日

私の長男・武蔵がアンドレス・ベージョ大学で卒論発表会をおこないました。それが認められエンジニアの資格を得ました。ここまでは私的なことですが、日本とチリの大学制度について少し比較してみたいと思います。基本的に日本は4年制、チリは5年制です。日本では在学中に卒論を書きますが、チリでは全過程を終えてから卒論の作成に入ります。武蔵の場合05年12月に全過程を終了し、卒論の発表が終わったのが今年10月なので1年10ヶ月かかったことになります。もちろん就職捜しはさらにその後になるわけです。つまり平均で日本の4年に対しチリでは6―7年かかって卒業します。日本では大学卒は入社してもお茶汲みのような存在ですが、チリでは課長とまでは行かなくても係長、主任として就職します。私の会社にも新卒者が入ってきますが、1―2年で係長クラスになっています。

最後に日本では入学試験の難しさを乗り越えると大学ではあまり勉強しませんが、チリでは入学後猛勉強が必要です。どっちがいいかな?


(政治)

1) しかし驚きました。こんなに驚くのは久しぶりです。何しろピノチェットグループが全員逮捕されたのです。奥さんと子供全員(5名)、陸軍関係者それに個人的な関係者で、全部で22名です。罪状は国家の機密費用の海外不正持ち出しとそれを国内に戻して着服していたというもの。なにしろ過去20年くらいの間、その家族が稼いだ金額と使用蓄積した金額の推定数字があり、その差額がこの不正着服分で賄われたらしい。派手な生活をしたのが運のつきだったわけです。

具体的には1980−1988年は年間平均5万ドルくらいの収入だったのが(これが正常だったのでしょう)国民投票でNOが勝った年の翌年280万ドルに跳ね上がり、人権問題でピノチェット批判が高まった93年には何と450万ドル。もう完全に常軌を逸しており政府、軍などの裏金を集めまわった様子が出ています。

この逮捕のニュースが流れると、国会で左翼グループが集まって議場で、突然国歌を歌いだしました。喜びのあまりでしょうね。もちろん右翼側は憮然としていました。怒って退席した議員もいました。

CNNを始め外国でもこのニュースは大きく報道されました。

(日本ではあまり話題になっていないようですが)

バチェレットは政府と司法はまったく別の組織だから、この件に関してコメントすることはないとしています。

野党側の反応は「いつもと同じですか?」だった。つまり政府の人気が落ちてくるとピノチェット問題を出して国民の注意を別の方向に向けようとするわけで、確かにこれはラゴスの時代にも使われた手段。

しかし「驚き」はそれだけではありません。その翌日、全員の保釈が認められました。本気で裁判にかけようとしているのか、バチェレットに頼まれて一日だけ国民の注意をそらしたのか?

さらに笑ってしまうのは全員逮捕を命じたその裁判官が、翌日ワシントンに飛んでグルーバー基金の人権問題に関する表彰を受けました。それに対するご褒美は約20万ドルほどとか。

ピノチェット派は、彼の訪米を阻止するため、最高裁に外国旅行禁止の要求書を出しましたが、それは拒否されました。ピノチェット派としてはグループ全員を逮捕してそれを授賞式の飾り物にするつもりかと憤っているわけです。

刑務所から出てきたピノチェットの子供は私たちを逮捕するなら、ラゴス時代の給料不正支払い事件の関係者も全員逮捕してもらいたいと厳しい(そうでなければ裁判所も不公平ですね。確かにその種の裁判は全然進展していませんね。バチェレットはどう対処するかな?)

2) 10月5日はピノチェット独裁時代の終焉の記念日です。

1989年(19年前になりますが)のその日、国民投票がおこなわれ、ピノチェット軍事政権の継続が拒否されました。もちろんこれはピノチェット拒否だけでピノチェット派が次の大統領戦を勝つ可能性は残されていました。   

73年から続いた軍事政権を国民が拒否したわけです。73年からそれまで選挙は一度もおこなわれていませんから、チリ国民でも若い世代は投票をした経験がありません。今でも鮮明に思い出しますが、相対する二つの陣営の選挙運動は対照的でした。NOをスローガンにした反対派のイメージは「チリの未来は明るい」で、継続を主張する側は73年の混乱を前面に出してまたこのような暗い時代に戻りたいのかと訴えました。僅差でしたがNOが勝ったわけです。

それを記念するこの日、政府は与党を形成するすべての党の党首がひな壇に並び、前大統領とバッチェレットを盛りたてました。

一方の野党の側は、当時の反政府(現在の与党)が使ったNOを前面に出し、こんな政権にはNOをと皮肉な形で対抗しました。

上記の1)2)のニュースがでるちょっと前、国民の意識調査としてバチェレットの人気が落ちている数字が発表されました。(今週の発表ではバチェレット政権を支持するは急落して35%、反対は46%でした)

これにどう対抗するかが政府内で検討され、もっとも妥当なのが内閣改造と噂されたのですが、それより前に、ピノチェット問題が爆発したわけです。

    しかし数日前に、国を良くするためなら、右翼も左翼もない。私の政府は野党の皆さんと組んで、法案作成を考えたいとコメントしたバチェレットはこの日、ひな壇で左翼の結束を強調したので、野党の大統領候補ピニェラから「大統領はあるときは私たちと協調、あるときは対決と、毎日コロコロ考えが変わるようですね」と軽く揶揄(やゆ)されました。

    さらに日曜日に発表された世論調査は政府を慌てさせたでしょうね。経済事項の各種の調査で(例えば、誰が大統領になれば労働者の給料が上がるか、失業率が下がるかなど)すべての質問でトップは野党のピニェラでした。もう何があっても次の大統領は野党のピニェラという雰囲気です。

3) レベルは落ちますが、政治の最後は新州知事の話。チリに新しい州が二つ誕生したことはお知らせしています。今までは北の第1州から最南端の12州、(その他に首都圏があります)ですが、それに新しく13州(ペルーとの国境)と14州(バルディビア)が加わりました、

北の13州の州知事に任命された社会党のカヤサヤは任命式のおこなわれる前に辞任しました。理由は昔、教員組合の理事をしているとき1000万円くらいの使途不明金があり、それに関与したとして裁判中だったからです。同じようなことが14州でも起こり、適切な人間を任命できない現政府のレベルの低さを暴露してしまいました。

(経済)

1) この何週間かチリの通貨ペソが強く、米ドルに対し切り上がっていることはお知らせしていますが、今週は1ドル503ペソまできました。

1ドル500ペソの時代が定着でしょうか?

新聞に興味深い記事が載りました。それによると2000年から2007年までの市場価格とインフレを考慮して、それぞれの産物の国際競争力を出し、その為替価格を算定するとブドウなどの果物は1ドル459ペソ、銅などの鉱産物は1ドル1845ペソになるとか。 つまり果実類は実際より10%低いレベルで苦しく、鉱産物は3倍の為替と同じになりぼろ儲けしているわけですね。

確かに銅の価格は1―9月の平均で3ドル27セントを記録しこれは1966年以来の高い数字。2002年なんてたった92セントだったのですから、いかに価格の急上昇があったか分かるというもの

で、結論として、チリの平均競争力は1ドル503ペソが妥当となり、現在の為替数字とピッタリ同じです。つまり現在の為替は異常なペソ高ではないとしています。いかにチリ経済に国際競争力があることがこれでも証明されています。しかし果実やワイン業界は青息吐息ですが・・・。

しかしペソが弱かった時代から、わずか数年で30数%切りあがったわけで、例えば今の日本が1ドル80円になったら、大半の企業が倒産寸前に追い込まれると想像しますが、チリはそんな状況にあるわけです。

さてペソが強くなると、証券市場も強気になって、平均株価指数は何と今週3.5%も上昇しました。

2) 8月の経済成長率は4.5%に留まり、07年通算では5,4%です。

9月の物価上昇率(IPC)が1.1%を記録し、1月からの通算では6.2%となりこれは過去12年間の最悪記録。物価の上昇は家屋の購入などで借金を持つ人間にはじわりじわりと重荷となってかかっています。例えば1月に30万ペソの借金を払っていた人は10月にはそれが318261ペソになるらしい。しかし国家財政は相変わらず超健全で07年の予算をはるかに超えた130億ドルほどの入超らしい。国は金が余って国民は金に困る図式ですね。

(一般)

1) ストライキ

   ストが最近流行していますが、医師組合のストは政府が60億円を提示して解決しました。これは病院関係者の給料改善と医療設備の改善などを合併した金額で、医師組合はこれで患者さんへのアテンドも良くなるし、優秀な医師が公立病院から私立の病院に流れるのを防げるとしています。

   次は全国市町村の労働者組合との問題が残っています。

   それに国立銀行の従業員もストに入りそうです。

(スポーツ)

1) サッカー

   先週敵地で引き分けたコロコロは今週本拠地に戻り、南米カップの第2戦を戦いましたが、ここでも引き分けに終わりました。この結果、PK戦にもつれこみましたが、残念、7対6で敗れ、準々決勝進出の夢はたたれました。

   一方国内リーグは上位の対決で注目されたカトリカ対アウダックスはアウダックスが勝ち、これでカトリカの優勝の夢はほとんど消えました。勝つと騒ぐ私の性癖は今週は逆に出て、カトリカ敗戦の翌日、工場に入ると工員さんからブーイングを浴びました。悔しい。

   コロコロは南米カップの敗戦の後、国内リーグでも敗戦して苦しい状況です。

   さぁ、いよいよ来週からワールドカップの南米予選が始まりますよ!


以上