チリの風 その233  07年7月23日―29日

  チリの風 その233  07年7月23日―29日
南部出張のため24日の朝7時、飛行場につきました。騒がしい音がしたので見に行くと千人くらいの群集が騒いでいました。カナダの20歳以下の世界選手権で3位に入ったサッカー選手団を迎えに来た群集でした。朝5時から集まり始めたとか。チリには物好きな人が多いものです。
さて日経ビジネスの7月5日号が送られてきました。「置いてきぼりニッポン」という総合タイトルでFTAで先行するチリが取り上げられています。その記事の中ではチリ産の鮭をタイで加工し、サーモンおにぎりとしてニッポンで販売しているとか、世界はそこまで合理化を図っているのかと興味深かったです。その記事の下に写真藤尾武蔵と出ていました。
最後に、作家の小田実さんが死亡されたとか。彼とは佐世保と札幌で会ったことがあります。原潜の入港阻止とかやっていた時代です。貧乏な私に昼飯をおごってくれました。感じの良い人でした。冥福を祈ります。


(政治)
1) コデルコの労働争議が経済問題を越えて政治化してきました。
 もう争議は1ヶ月を越えて継続中ですが、今週もマインへ通じる道路の封鎖が続き、それもローダーなど重機器をマインから持ち出し道路上に止めるなど力任せの抗議です。一日百万ドルを越える損失といわれ泥沼化していますが、これが結局バチェレットのエラーから来ていると考えられます。つまり労働者の権利も少しは考えなければと当初彼女が甘い考えを漏らしたので、側近がそれを実現させようと働きコデルコ首脳と対決。最近になって、彼女は労働者をあまり甘やかすのはいけないとスタンスを変えたようですが、遅すぎます。下請け労働者に提出した紛争解決の条件のボーナスは生産コストを1%上げるほどの巨額なものですが、それでも下請け労働者はまだいけると踏んで争議継続。政府もなめられたものです。
 とにかく国営のコデルコの従業員数(下請けを含む)は同じ量の銅を生産するのに民間会社の3倍の人間を必要としています。まぁ親方日の丸でのんびり働いているのでしょうね。(3倍ですよ。30%アップじゃないですよ)とにかく最近の5年で生産コストが80%アップとか。ひどすぎる。
コデルコの従業員の平均年齢は46歳、民間は37歳。この差も大きい。

2) バチェレットがチリの国政をうまく運営していないことは国内だけでなく諸外国からの批判となってあらわれています。PEWリサーチセンターが世界47カ国で行った調査の結果として、ラテンアメリカで尊敬される首脳はブラジルのダ・シルバ、嫌われる首脳としてベネスエラのチャベスとチリのバチェレットが上がっています???
また国内問題では犯罪の増加がチリ国民の最大の悩みとか。それからチリの連帯すべき国として1位がアメリカ2位がブラジル、3位になんと日本が入っています。警戒すべき国には1位がボリビア、2位がペルー、3位がアルゼンチンでした。いつものとおりですが。

3) 軍事政権時の秘密警察はサリンなど殺人化学兵器も使用していたことがわかってきました。その中で1980年代初めに死亡したフレイ元大統領の死因がこの化学品によるものではないかとされ、旧軍関係の医師が4名逮捕されました。しかしサリンってニッポンでオウムがつかったやつですかね。世界中どこでも同じような発想があるものですね。

4)先週問題になった刑務庁の問題ですが、与党側から見ると、野党はいつも同じ手口で騒ぎ立てる。この話題は既に数年前に出ており新しいことではない。刑務所に関する豊富な知識をもつ見識者に刑務庁が見解を求め、その仕事に対する報酬を支払うのに何の問題があるのかとなります。
野党側はそれほど多数の刑務関係の専門家が与党の議員や大使関係者にいるわけはなく二重賞与であることは疑いもない。しかも金が足りないので刑務官に十分な装備も貸与できないとする刑務庁が多額の金を払ってまで集めた情報とは一体何なのか?
疑いはここだけでなく他の省や庁でもあるので調査を始めたいとしています。そういえば、バチェレットの娘って何の専門家なのですかね?大統領は口を閉ざして全くこの件で発言していないようです。

5)日本の参院選で落選したフジモリですが、選挙が近づくにつれ、彼に関する記事が各新聞に掲載されました。これで道はすべて閉ざされ、一番落ち着くのは早いうちに日本に送還されるのを待つでしょうね。


(経済)
1) 南米では圧倒的な地位を占めていたチリの安定性に疑問符がつきました。
経済不安定性指数が上昇し始め、04年末に南米の中では安定性で圧倒的な1位を占めていたのが、今年は他国と差がなくなってきました。04年の指数はチリは先進国並みの64、ブラジル382、アルゼンチンは外国企業の投資は全く考えられない4703でしたが、最近はチリ115、メキシコ139、ブラジル222、アルゼンチン468ですから、他国がチリを見る目が変わってきたことを実感します。

2) 好調を誇っていた果物の輸出に影がさし、外国大手企業がチリから撤する動きを見せています。ブドウやキーウィ―などチリ産の果物は世界各地に輸出されていますが、ペソ高が継続し、輸出産業には魅力のない国になっています。このためDOLEやDEL MONTEなど1000ヘクタール単位で農場を売却しているらしい。
輸出産業にとってペソ高は致命傷だが、チリの輸出の50%を誇る銅産業は銅の高値のためこのペソ高問題に全く影響されていない。このため政府の為替政策に関する反応が今ひとつ遅く、果物などもろに他国と競合している産業では、1ドル800ペソ近くまで行ったのが、現在520ペソなどと30%も切り上がった状況になり、それだけ利益が落ちればとても商売になりません。困った。

3)コデルコ争議に続いて国営石油公団(エナップ)でも同様問題が発生しそうです。労働者は世間を見て今がチャンスと攻撃をかけようとするのでしょうね。医師組合もストに入るとコメントしているし、厳しい情勢が続きます。

4)ただ失業者指数は毎月下降しており、現在は8.4%と7月としては98年以来の低い水準。思い出しますが、チリの景気が好調に推移していた90年代の後半、例のアジア危機が起こり、それまで98年に5―6%だった失業率が99年に一気に15%まで上昇し、破綻寸前まで行きました。それがこうして再び過去の水準に近づいているわけです。内政の失敗からまた雇用不安が起こるなんてなりませんように。


(一般)
1) トランサンティアゴ
 しかし不愉快なのは地下鉄がいつも満員で、列車が入ってきても乗り切れない乗客が続出です。こうなるととにかく早く乗らないと損と降りる客を無視して乗り始める日混乱が続いています。ある日、無理に乗ってきたおっさんを降りようとして降りられないおばさんが叩き、喧嘩が始まりました。それから女性同士の言い争いも見ました。降りようとした私にぶつかってきたおっさんを私が突き飛ばすとか、今週は嫌な事件が続出です。地下鉄の連結の車両数を増やすとかバスの数を増やすとかの宣伝はありますが、一向に良くなりません。これで乗車料金が上げれば、暴動騒ぎでしょうね。
 この新交通計画が始まる前にメトロ(地下鉄)が政府に宛てた秘密書類が新聞社の手に入って公表されました。それによると、新交通計画が始まると現行の3倍の乗客を運ぶことになるが今年度の車両の新規購入予定は10%アップだけで、これでは混乱は避けられない。特にピークの半時間は全線で10の駅で乗車不可能な状態になるだろう。予想される不祥事としては、乗客による駅の占拠、列車を止める、抗議のための駅近辺での道路封鎖などが考えられると書いてあります。さすがサンティアゴの市民はレベルが高い、最後の一つをのぞいて今の所、実行に移していません。しかし予想はピッタリですね、当たっています。

2) 新車の値段が来月急激に下がります
 これはちゃんと理由があって、中国製の安い車の輸入が始まったからです。それにおされて他国製品が売れなくなりそう。これを避けるため中国品が市場に出る前に今ある在庫車を安値で売って中国品にスペースを与えない作戦です。中国だけでなくインド産の車も入ります。
バスやトラックのタイヤなんか油断をしているうちになんとチリ市場の40%くらいのシェア―を中国品が占めてしまいました。

3) 殺人事件
 世界中どこにでもあるので、殺人事件だけではそう話題にもなりませんが、昨年17歳の少年が公園でアクロバット自転車を練習していた青年をバットで殴り殺した事件はチリ中の話題になりました。彼の父親はキリスト教のある宗派の主要人物ですが、「息子がささいなことからバットで相手を殴ったのは事故で犯意がなかった」とは言えません。今週その判決が出ましたが、3年ほど青年研修所に入れられるだけで、刑務所送りにはなりませんでした。被害者の両親は怒りまくっています。どこに正義があるんだ、犯人と被害者の扱いに差がありすぎると。

4) チリ人観光客の欧州での取り扱かわれかた
 既に以前から問題になっていますが、チリから欧州に休暇で訪れた観光客がひどい扱いを受けています。スペインに住む母親を訪ねた子供が飛行場で捕まりチリに強制送還された例が今週あり、チリ政府は欧州共同体にクレームする予定。パスポート、ヴィザがあってもクレヂットカードがないとか、所持金が少ないと不法滞在(仕事探し)の可能性があるとして強制送還されるらしい。しかし観光の旅に最近3ヶ月の給料証明書なんか持っていく人はいないだろうが、怪しい観光客はそれも要求されるらしい。
その収容所の様子がニュースに出たが、観光客が窓もないような部屋に入れられ、二日、三日とそこで過す例があるとかで、ほとんど犯罪人扱い。しかし・・・
一番ひどいのがスペインだが、他にも英国など欧州各国でチリ人がひどい目にあっているらしい。

5) 祝日と休暇を合計した数字の世界比較が行われ、欧州諸国は長い休みに加え多くの祝日があり、例えばフィンランドは44日、フランスは40日とか。南米ではさすがブラジルがトップで40日。チリは控えめに30日でした(休暇が15日、祝日が15日です)ほどほどが良いですね。

6) 今年の冬は寒い
 今週首都圏の温度はマイナス4度まで下がり、23年ぶりの寒さとなっています。でもまぁマイナス4度くらいなら大げさに言うほどのことはありませんね。でもこの寒さはスキーなどウィンタースポーツファンにはたまらないうれしさでしょう。

7) チリは世界のデブの国に
 これはショックなニュースでしょうね。6歳で超過体重の子供の数がチリは19.4%となりました。なんとこれまでの世界1のデブを誇ったアメリカ(18.8%)を僅差ながら凌いでいます。ブラジルが意外に低く13%、スポーツの好きな隣国アルゼンチンは9.2%ですからね。
ちゃんとした食事をとって、スポーツをしないと私みたいになるわよと大統領が言っているみたいです。親も学校も自分の子供がデブになっていくのに心配がないんでしょうか?


(スポーツ)
1) U20の活躍を受けて一時盛り上がったチリサッカーですが、プロリーグの後期戦が始まったのに今ひとつ。それは先のアメリカップの敗退を受けて監督の入れ替えを発表したのに、その次期監督をサッカー連盟が決めきれず混迷中。なさけない。決断力のない人間がトップになるとこういう事態が繰り返されますね。
それからトロントで警察からひどい目に会ったチリ代表ですが、優勝したアルゼンチンチームはホテルの部屋で電話を蹴飛ばしてこわす、電気スタンドにヘッディングする、荷物を運搬する車を2台廊下に出してそれに乗ってぶつけ合うとか乱暴狼藉。それでも警察もホテルの警備員も出てきませんでした???(これは同チームのメンバーがビデオにとってそれを発表したことから明るみにでたもの)

2) ブラジルで開催中のパンアメリカオリンピックでチリは金メダル6個を含む健闘を見せましたが、国別ランキングはドミニカに抜かれ一つ下がって最終的に10位。参加国中メダルを一つでも取ったのは30カ国です。


以上