チリの風  その202 06年11月27日―12月3日

チリの風  その202 06年11月27日―12月3日

気持ちの良い週末です。気温は高くなりましたが、涼しい風が吹いています。
ベランダに座って風に吹かれながら本でも読んでいると気分は最高です。
さて私事ですが、仕事が順調で11月は工場操業以来の最高記録。工員さんとアサード(バーベキュウ)を実施。毎日、楽しく仕事をしています。


(政治)
1) なんと、週末ピノチェットが心臓発作で入院。生命に影響のある大問題らしい。そうでしょう、先週に91才の誕生日を迎えた高齢者ですからね。世界中の話題になっています。
多分,この2・3日で結論が出ますが、政府は彼の葬式をどう取り扱うか明確にする必要があります。私にはピノチェットの功罪ははっきりしています。破産状態にあったチリを救ったのは事実。ただしその過程で、人権問題を起こし多数の人間を殺したことと政権末期に将来のことを考えて、国家の金を自分の口座に流用したことの2点は拭えない汚点です。
旧友(いや仇敵か)のキューバカストロも死を目前と言う状態ですが,左右の頂点にたった二人が同じ時期に最後を迎えようとしているのは不思議な気がします。陸軍病院の前に大勢のピノチェットファンが応援のため押しかけています。

2) それに押されてしまいましたが、チリでもっとも重要な話題は汚職問題です。焦点はぴったりラゴス前大統領に当たっていますが,彼は強気で,経団連の総会に招かれて演説した際,何冊かの本を取り出し,「これですよ、私の政府がやったことは。橋をかけ,道路を作り,医療制度を整え,インフラ作りに成功した、これが実績です。したがって今取りざたされている汚職問題なんて小さな問題ですよ。」どこから出るのかその強気。もっともその前の大統領フレイはこの問題を小さく考えるのは与党連合にとって致命傷になりかねないとコメントしています。
しかし不思議ですね。これだけ問題がはっきりして、国民の目が注目しているのに対策がとられていません。最後は与野党間で調整して,まぁ何もなかったことにしておこうとでも考えているのかな?与党としては野党の弱点(もうピノチェット問題は使えないだろうが)が見つかれば話し合い解決にもちこもうとするでしょうね。しかしチリの政治の世界って、外から見ていてあらすじが読めてしまうほど単純ですね。
   新聞,テレビなどのマスメディアでまじめに取りあげないのは規制が効いているからでしょう。なさけない。
   そうそう、ニュースにはなっていませんが、私の見るに,今回の汚職事件がいまいち盛り上がらないのは、汚職の原因が私腹を肥やすためではなく,(大半が)選挙費用にあてられていたからではないでしょうか。つまり政権を維持するために選挙に勝たなければならない、選挙に勝つには宣伝が必要だ。その費用は、じゃ政府の資金をこっそり流用しよう。これでしょうね,問題は。
   まぁ右も左も政治家は同じようなものです。

3) 犯罪の増加
犯罪の増加に対抗するため前政権の2002年から安全地域作戦などいろいろな対策がとられてきましたが,それらは失敗に終わったと今週発表されました。そしてそれらに変わる新しい戦略をとると政府が発表すると野党はそれらの費用の正当性を見守りたいと、見当違いもしくは本末転倒のようなコメントをしている。しかし野党の言うのは犯罪の増加を防ぐにはどうすればよいかと第三者コンサルタントに仕事を任せ,その費用だけで予算を使ってしまわないようにですね。情けない話。

4) ハイチのチリ軍の駐在延期
ハイチの国連軍(19カ国で構成)に入っているチリ軍隊(2004年から派遣)はハイチの政治安定化に重要な役割を果たしていると評価し、国会は更に6ヶ月の延長滞在を許可しました。
しかしアメリカでもっとも貧しい国ハイチは一部の独裁者が気ままな政策を続けてきた結果,民主主義も育たず,国民は最低水準の生活を維持するのがやっとという状態が継続しています。同じ島を共有しているドミニカ共和国はハイチよりずっとマシな状態ですから、とにかく頭を換えることが最重要と言うわけです。

5) 近隣諸国
ボリビアの危機は既に何回か書きましたが,どういうわけか、ペルーが順調です。チリが汚職で揉めていますが,それとは比べ物にならないほどの最悪政権の張本人ガルシア(司法の追及を逃れるため外国に逃げていた)が大統領に返り咲いたのですが,それがなんと,今のところ経済が順調で(今年すでに8.4%の経済成長が記録されている),このため国内の緊張が緩んでいます。チリに続いてアメリカとの自由貿易協定締結を計画中。もちろん一部の富裕層のみかもしれませんが、一般市民の支持を受け政権は順調に走行しています。このため彼らの天敵チリとの緊張も緩み,敵視政策はとられていません。まぁもう少し見てみましょう。


(経済)
1) コロンビアとの自由貿易協定調印。次のチリの目標はエクアドルとか。何しろチリと自由貿易協定を結んでいるのは57か国で、世界人口の60%にあたるとか。あれっ、日本とは?

2) しかし鉱山会社って儲かって仕方が無いでしょうね。1ポンド3ドルの高価格が継続するのですから。で、今年の1−9月の利益は115億ドルと発表されました。1位はエスコンディーダ(BHP)で41億ドルとか。

3) しかしチリ経済にやや陰りが見えてきました。過去4年で始めて首都圏の小売業が前年対比マイナスを記録。ただしマンションなどの売上は依然堅調とか。いつまで?

とはいいながら失業率も依然低い状態で8−10月の平均水準で7.4%を記録し、これは過去8年間で最も低い水準とか,おめでとう。

(一般)
1) いじめ自殺
 とうとうでました。学校でのいじめによる生徒の自殺が。大統領がこのような悲しいことが二度と起こらないよう全力を上げるとコメント。にもかかわらず何と数日後に2度目の自殺。連鎖反応ですね。チリも完全に日本と同じ道を歩いています。もっとも日本のいじめは学校だけでなく職場にまで蔓延となっていますが・・・・
さて職場で昼食時にこのことを聞いてみると,工員さんはべつに最近始まったことじゃない。ずっと昔からあるんだけど,それがニュースにならなかっただけだよとか。
サンティアゴ日本人学校でも10年程前,2件ほどこの種の問題があり,学校を挙げて問題に取り組みました。その取り組みの一つで、講演会が実施された後,いじめを起こしている生徒が「いじめをしてはいけないということが良く分かりました」と書いていましたが、全く他人事のよう。

その苛められた生徒の一人は学校を辞めましたが、学校側の対応など、詳しいことを私の小説に書いてあります。と言うのはいじめられて退学したのは私の娘でしたから。その彼女は今週チリの高校を卒業しました。卒業式で彼女は代表となって答辞を述べました。大学入試はすぐです。

2) テレトン
   チリに来たばかりの人ならびっくりしたでしょうね。週末テレビを付けるとどのチャンネルをまわしても同じ番組なのですから。テレトンというチャリティショー(障害児施設の建設運営のための募金運動)ですが、もう28回目のチリの年中行事です。私はこのテレトンの第1回目からチリに住んでいます。目的はすっきりとした立派なものですが,中心になっている男がなんだか胡散臭く感じはじめて、昔は子供の手を引いて銀行に募金をしに行きましたが,今年は何もしませんでした。集めた募金はちゃんと使っているのだろうか?118億ペソ(約23億円)ですからね。
さてその番組の最後を飾るショーはいつも国立競技場で行われますがその入場券(入場無料)を入手せんと多数の市民が競い合って大混乱を起こしました。

3) さて同じ頃、コロコロの南米大会決勝戦の入場券販売をめぐっても同じような大混乱が起こりました。怪我人、逮捕者も出ています。
チリ人って列を作って順番を待つことが出来ないんですね。列を無視して窓口に大量の人間が押しかければ混乱するのは自明です。悲しい実態。地下鉄で降りる客が終わらないうちに乗客が乗り込むので混乱するのと同じようなもので,規則正しくとか、順番を守ってとか言うきまりが子供のことから身についていないのが問題の根源です。
ところで決勝の対パチューカ戦の入場券6万枚はすぐに売り切れました。

4) チリ大学で学生が原住民マプチェを擁護するための抗議活動をした際,火をつけて大学の蔵書を燃やしました。燃えた本の中には120年前位の貴重なものも含まれており、学部長が裁判所に犯罪行為として訴えでました。
   マプチェ代表はチリ政府は先住民族マプチェの権利を尊重せず,歴史的にみても一方的に略奪行為を繰り返していると抗議を声明しています。マプチェの60%は領土奪回のためには暴力行為も辞せずとしています。

4) ミス地球という世界美人コンテストにチリ代表が第1位に選ばれました。そうかチリ美人はちゃんと世界的に認識されているわけだ。おめでとう。余り聞いたことのないコンテストですが。

5) 整形美容手術に失敗して、患者を死なせてしまった医者に有罪判決が出ました。麻酔薬の投入量を間違ったようです。そのエクアドル人の医者は3年の懲役になりながら、刑務所には1日も入る必要は無く、続いて医者として働くことも認められました。遺族はじゃ、有罪って何のこと?と憤っています。

(スポーツ)
1) しかしコロコロはまた敵地メキシコで引き分けました。南米大会の決勝です。次はサンティアゴでのホーム戦,これに勝てば南米のトップにつけます。チリの国民の半数はコロコロ・ファンですから、その試合に勝てばサンティアゴ市内は麻痺し,死傷者が多数出る大混乱が心配されます。
チリのチームが南米大会の決勝戦に進んだことは過去数度ありますが,私はそのうちコブレローア、カトリカ、コロコロと3回国立競技場に足を運んでいます。勝ったのは91年のコロコロだけですが。
さてナショナル・チームの監督が決まりましたが,コロコロの監督ボルジでも、スペインで活躍中のペレグリーニでもなくなんと今年の監督アコスタの続投でした。がっかり、これでは変化がない。来年のアメリカ大会も目が無いでしょうね。


以上