チリの風  その184 06年7月10日-17日

チリの風  その184 06年7月10日-17日

チリに「濡れたところに雨が降って」と言う言い方がありますが、日本なら泣きっ面に蜂でしょうか?今週のチリはそんな雰囲気でした。
とにかく雨が降って、冬に雨は珍しくない南部でも一日に100ミリ以上降ると大変です。大洪水になりました。どう言うわけか、他地区に比べるとサンティアゴはその割に被害が少なかったようです。
私は出張で北部第3州のコピアポとその周辺に行っていたので、雨にはまったくあいませんでした。


(政治)
1) しかし泣きっ面に蜂は天気のことだけではありません。国民の人気に陰りのでてきたバチェレットにとって今週ほど厳しい週はなかったのではないでしょうか?
私の息子が大学研修で南部のプエルト・モンに行くことになりました。夜行バスでしたが、運行が中止になりました。どうしたのと聞くと道路が封鎖されていてバスが走れないって・・・それが今週の波乱の幕開けです。
その封鎖はトラック業者の威嚇の第1歩で石油価格の上昇を受け、チリでもガソリン、ディーゼルオイルの値段は毎週のように上昇し彼らの懐を痛めていますが、それに対し政府の援助がないとのクレームです。しかしこれは大雨の異変で、どこかに消え去り(一時中断でしょうね)多数の死傷者を出した南部に注目が注がれました。
それと同時期にアルゼンチンは天然ガス問題でチリと対決するだけでなく、(税法を変えたとして)外国の車にはガソリンを高く売ると発表。チリの中でこの違法をどう咎めるか問題になりました。
政府はメルコスール共同体にクレームを提訴するらしいが,それでは全く解決にならないと言う意見が多い。それならチリからアルゼンチンには観光客を送らないとか、アルゼンチン人向けにチリ国内での価格を変えるなどの意見も出ていますが、それらの案の実施にはいろいろ問題が出てきます。
アルゼンチンはチリ側のクレームを全く無視しています。唯我独尊の彼らですから,チリ側クレームなんて痛くも痒くもないでしょう。
そして週の最後になると、突如、バチェレットは内閣改造を発表し、3人の閣僚を入れ替えました。もっともそれからもれた(留任した)大臣の中でもまだまだ入れ替えが必要な大臣がいそうですが。
しかし教育問題,犯罪の増加などの問題から国民の人気の落ちたバチェレットがあわててハンドルを切っているのがよく分かりますが、本当はそうではなく、もう少しどっしり落ち着いて、肝っ玉かあちゃん式に、「国民の人気投票に一喜一憂する必要はない。正しい政策を誠実に行えば,国民の支持は戻ってくる」と言うべきです。まぁ、私が言ってもしようがないですが・・・
辞任させられた大臣は当然喜ばないし、閣僚入れ替えを事前に知らされなかったと怒る党首もいるし、このくらいの入れ替えでは世間の目はごまかせないと野党の人間、いやはや大騒ぎです。

2) 野党側の前大統領候補だったラビンが新党結成案を発表し注目を浴びています。前々回ではラゴスと激しく大統領の座を争った彼ですが,前回は身内のピニェラに敗れ決戦投票にも残れませんでした。その彼が古巣のUDIを出て新党結成ですかね。彼を2回にわたって支持したUDIにすれば寝耳に水でしょうが、ラビンとUDIが見かけほど上手くいっていなかったことを現すものでしょう。

3) 久しぶりにピノチェットの話題を。
兵器工場を経営していたカルドエンはピノチェットが武器の不正輸出をし、懐に不正な金を入れていたのは疑う余地は無いと発表。しかし昔の味方を今になって裏切ってどうするのかな?
それから彼の息子を麻薬業者だと告発した軍の元秘密部隊の長官をその息子が逆に不正発言と裁判所に訴えでました。そうしてどんどん真実が出てくるといいのですが。

4) トラック業界と政府の抗争はこれからチリの大問題になります。と予告してしまって・・・。


(経済)
1) 原油価格が上がっていますね。土曜日サンティアゴのバス代がまた上がりました。370ペソから380ペソに。イスラエルイスラムとの抗争は更に継続でしょうから、原油価格の上昇は避けきれず、チリの国民生活に与える影響は必至。次の値上がりでバス代は400ペソでしょうね。バチェレットはこれをどう捌くのか・・・。

2) アルゼンチンからの天然ガス問題もこれと同様に大問題です。チリ政府はアルゼンチン側に50%アップで決着しようと持ちかけたらしい。その50%と言う数字は先週のチリの風で書いた数字と同じです。
しかしアルゼンチン政府はそれを呑むとも蹴るとも発表しない。向こうの新聞では100%アップが最終乙波になるとか。アルゼンチンからの天然ガスが全部止まると言う噂もあり、予断を許さない。
   さてチリ政府は市民向けガス料金にそれを転化しないようと業者にアピールしているが、それは全く無理な話だろう。原材料が上がれば生産コストが上がるのは自明で、それを製品価格に転化できなければ,企業として生き残れない。で、政府はそれなら価格統制を実施する可能性を示唆している。力ずくで押さえつける?
しかしそんな状態でも政府の中から、アルゼンチンからの天然ガスは他のどの資源に比べても価格競争力があるという声が出ている。いずれにしても新聞発表で一般家庭のガス代は(85m3の消費として)2000年に14000ペソだったのが今月は25000ペソになる由。それが50000ペソにでもなったら一般市民は黙っていないでしょう。
   バチェレットおばさんはここで指導力を発揮すべきですね。アルゼンチンには頼らないと。だから、彼女は例えキモイと思ってもベネスエラのチャべスのおっさんと友好を深めているのだと思いますが。先方から国連の委員会で、チリ票をベネスエラに入れるよう申し込みが来ています。さぁどうするバチェレット。
とにかくこれでチリは1年で少なくとも2億5千万ドル(もっと?)の支出増加になる由。

3) さて自然破壊問題はチリだけでなく世界の重要問題ですが、どの国でもその対策を本気になってやっているとは思えません。もっともそのため地球が人間が住めない環境になっても、地球には痛くも痒くもないし,人類が滅んだ後には現在と異なった動植物が生き続けるでしょう。
それを実感したのは政府の環境機関が発表したコデルコ援護の条例で,それによるとコデルコは他のどの企業より多くの廃棄物の排出を認められる由。その真意がわからない。他の業者の廃棄物は汚いが、コデルコのそれは環境を汚さないとでも言うのでしょうか?
現在係争中ですが、コデルコのエル・テニエンテ鉱山のカレン堤防から流出した廃棄物でその近所の動物が多数死んだ事件があります。その問題の解決もついていない中でこの決定は、コデルコはチリであり、コデルコに規制をかけるような条例は認められないとでも言うの?
そう言えば、第3州のパスクア・ラマ鉱山の開発も正式決定の前になし崩し的に実行されているようです???
鉱山の話のついで・・・ チリ北部はいたるところで銅が出るといっても過言ではありません。今週コピアポからバジェナール地区で鉱山を訪問しましたが、そうした本格的な鉱山の近くで、丘のあちこちに個人が穴をあけて鉱産物を掘っているのを見ました。そんな前近代的な採掘方法でも、昨今の銅価格だとしっかり採算が合い、そうした零細業者がピカピカのトラックを買って、掘り出した鉱物をエナミ(国立鉱山会社)などに運び込んでいます。


(一般)
1) しかし今週の雨は良く降りました。とくに8州のビオビオ川の氾濫はすさまじかったです。全体で20人以上の死亡者が出ました。
その中でも注目されたのは,8州チグアヤンテで、土砂崩れがおき、その崩壊した家屋の中にいた人間を救出しようとした消防隊の人間が何人も巻き添えになって死亡しました。その内の一人は例のニューヨークの大惨事(911事件)の時、現場で被災者の救援をしていたらしいが、そこでは運があったのに、チリに戻って運が尽きたのだろう。人生は分からないもの。
その救出現場に出向いたバチェレットに生き埋めになっている家族が、大統領お願いですからここから去ってください。あなたが救出作業の邪魔になっていますとクレーム。彼女は面子を失った。
さらに幾つかの橋が崩壊していますが,ほとんどは最近建設されたもので,ラゴスが公共事業省にとにかく早く仕上げて,出来た橋の数を宣伝しようと言ったのでしょうね。誰もそれを糾弾する声を上げないのが不思議。
ところで不思議なことに、先週,もっと少ない降雨量で被害の出たサンティアゴは今回30ミリを越える雨にもかかわらず大きな問題なかった。どうして?
火災保険の付帯として水害保険がつけられますが,今回の災害で,保険会社が被災者に支払う今年の保険金は、火災被害より水害被害の方が多くなるらしい。保険に入る人は考えた方が良いですよ。
ところで8州で大きな被害が出た原因として上流のダムの放出が言われている。ダムの決壊を招くような大量の水の蓄積はダム側としては認められないから早めに水をダムから放出したら、それが自然の増水と重なって川の氾濫になっただろう。天災か人災か?
もちろんダム所有の発電会社はダムのない川の氾濫もあり、ダムがすべての責任と言うのは間違いと防戦している。

2) 世界遺産にコデルコのエル・テニエンテ鉱山の町セウエルが登録されました。チリとしては5番目の喜びです。念のため、最初はイースター島、そしてイキケ近郊の廃鉱フンベルストーン、チロエ島の教会(ジェスイット派)、最後はバルパライソの街並みでした。
チリにおられる方は日本に帰る前にこれくらいは見ていってください。
もっとも私にすれば、最後のセウエルはコデルコが宣伝のため強引に押し込んだのではと思うのですが。

3) サンティァゴのプロビデンシア区役所がチリの最南端第12州住む原住民の子供を首都に招待。彼らの住むところからサンティァゴまでどうしても3日ほどかかるそうで、2週間のバケーションでも首都には1週間だけ。彼らの祖父の時代には裸で毛皮を羽織って冬を越していたらしい。しかしその子供たちの目にはサンティアゴはどんな風に映るのでしょうか?

4) カジノの増設
   全国各地で建設中の9つのカジノ経営権のテンダー結果が発表になりました。全部で三億ドルほどの権利金が政府に入るそうですが、しかしカジノを全国各地に作ることが良いことなのかどうか、今のチリにとって。
   今週訪問したコピアポ(第3州)でもセントロ(街の中心)で昔学校があったところに、カジノの建設が進んでいました。コピアポのカジノはスペイン資本が経営権を得たらしい。
   カジノの権利なんて、いかにも汚職の巣窟みたいに見えますが。


(スポーツ)
1)サッカー  日本がチリを追い越して長い間世界ランキングの上位を占めていましたが, 今回のWカップの惨敗でランクを下げ,一方チリはその前哨戦の欧州遠征で目を見張る成績だったのでランクを上げ,その地位が逆転しました。チリに住む日本人としては素直に喜んで良いのか複雑な気持ちです。チリが上がるのはうれしいが、日本が下がるのはくやしい。ねっ。
ところで、プロの後期リーグが始まりました。前期優勝のコロコロは余裕の補強をしましたが、それ以外のチームは目立った選手の加入もなく、またコロコロが優勝でもしたらチリのサッカーが面白くなくなること必至。
なんとかカトリカががんばってほしいもの。しかし、何とカトリカの初戦の相手、コンセプシオン大学は、試合のためサンティアゴ入りしてから下痢の選手が続出、病院入りの始末で試合は中止になりました。選手の管理をチリのプロ・チームはしてないのかな?

来週から訪日することにしました。で、チリの風をお休みします。よろしく。