チリの風  その182  06年6月26日-7月2日

チリの風  その182  06年6月26日-7月2日

木曜日,仕事で7州に行きましたが、途中6州から南はかなり強い雨だったのにサンティアゴは雨にならず、大気汚染は良くなりませんでした。もっとも週末マラソン練習で丘の上まで上がって下を見ると、意外にサンティアゴの街がきれいに見え,それほど大気汚染はひどくないようです。


(政治)
1)今週の話題は犯罪の増加,凶悪犯罪の激増でしょう。
しかしそれに対し、政府の一部から犯罪の増加はマスコミが煽っているだけだ。警察に届けられた犯罪の件数は06年に入って急増などしていないと反論する動きがあった。またそのなかでチリビジョン(9チャンネル)はニュースの中の53%は犯罪関係という異常さと指摘があった。それを受け、同社は「当社は誠実にニュースの選択をしており、指摘された異常さという見解を受け入れるわけには行かない」と圧力には屈しないとの冷たい反応。
さて今週、サンティアゴの有名なショッピングセンターの宝石店にグループが押し込み、大胆にも日中、大きなハンマーを使って扉やガラスをぶち破って宝石類を強奪しました。たまたまその日、非番の警察官が通り合わせ、犯人を射撃、一人を射殺しました。(その射殺された犯人は過去なんと数度の逮捕歴を持っていた)
そのため、捕まった犯人がすぐに社会復帰する(娑婆に出てくる)のが問題となり、裁判所の犯人の取り扱い、つまり判決の内容に疑問が集まった。裁判所側は、法律の指示のとおり働いており、問題があるとすればそんな法律を作った国会にあると匙を違う方向に。しかし笑ってしまったのは、最高裁判所の長官の別荘に泥棒が入り、テレビカメラの前で、長官は泥棒が増えているという実感がありますかとかこれで犯人が逮捕されれば、刑務所に留置させますか,すぐに釈放しますかなど嫌味な質問を受けていた。(その犯人は後日,逮捕されました)
おまけみたいですが、キリスト教民主党の新総裁アルベアルの所にも週末に泥棒が入りました。じゃ、次はコデルコ社長のところでも入るのかな?
しかし話題はこれだけではありません。犯人が通常入れられるのは刑務所です。ところがサンティアゴの場合、その刑務所が払底しており、なんと刑務所の中庭にビニールの天井をかけただけの所で毛布に包まった囚人が寒さに震えながらキャンプのように雑魚寝しているらしい。囚人の家族が動物以下の待遇と嘆いている。犯人だからしようがないと言うべきなのか、もう少しマシな刑務所に出来ないかとクレームすべきかチリ人に聞いてみたいです。
バチェレットはこの問題について、政争の道具にしてほしくないとコメント。オバちゃん,何言うてんの?という感じだ。
私のパートナーのおばさんが今週、買い物に行くためマンションを出たところで襲われ、突き飛ばされて足に怪我をさせられたうえにハンドバッグを奪われました。しかし老齢者が襲われると、その後、ショックで外を歩けなくなるでしょうね。
またビタクラ地区の高級住宅街で、強盗に入られた家の地区で、住民の間に危機感が募り,雪崩れをうって売りに出す現象が報告されています。

2)こんな状況で、バチェレットは全閣僚など政府関係者を集め、今週マラソン的な長時間協議を行っています。新聞の記事には前大統領のときと比較すると、彼女がミーティングにかける時間は2倍にもなっており、それだけ彼女が危機感を募らせている,もしくは自分の部下を信用できないことを物語っているらしい。もっとも、時間をかければよいというものではありません。
しかしこれだけ与党が自壊的作用を起こしても野党の突き上げが少ないのは野党も同じ現象を起こしているからです。先の大統領選挙戦で、野党候補者ピニェラはチリの選挙方式を改正し、投票を多くとった候補が当選するという正常方式にしたいとしていましたが、それを野党第1党のUDIが最近拒否しました。それについて、外遊から戻ってきたピニェラは彼が所属するRNを通して政府と話し合いを持ちかけました。もちろんUDIはこれに対し、ピニェラは永久に外遊してもらいたい、彼ほど、嫌われている人間はいないとの取り扱いをしています。野党の側が二つに割れれば,どれだけ与党が失敗しても転覆の危険はありません。もっとも国民の間には政府に対する不信感が増大していくわけですが。

3)近隣諸国の動きとしてボリビアが注目されます。39年ぶりに憲法委員会の審議員を選ぶ国民投票が行われますが,その結果としてサンタ・クルスなど4州の自治権ボリビアから独立?)問題がどうなるか見ものです。チャべスの援助のお陰もあって、これまで順調にボリビア国内をまとめてきたモラレスですが、この先のボリビアをどこに持っていくか重要な分岐点でしょう。

4)日本の話題として橋本元首相の死と小泉首相プレスリーの物まねをしているのがマスコミに出ました。チリにおける日本の重要性アップの証左と言えるでしょう。


(経済)
1)アルゼンチンとボリビアの間で天然ガスの輸出に関し合意が見られました。それを受けてアルゼンチンからチリに来る天然ガスの価格が急上昇とか。このためテレビのニュースではガス代、電気代が来月から大幅上昇し、恐らくそれは現行の2倍にもなるのではないかと言われています。中から下のクラスの家庭には大打撃になりそうです。安定供給と価格のバランスの問題ですが・・・。
今回の天然ガスの値上げは95年にチリとアルゼンチンの間で締結された協定には含まれていませんが、そんなことを言っても聞くようなアルゼンチンじゃないですからね。
で,チリも源子発電所を2015年には持つだろうとの見解が発表されました。さぁどうなるかな?この他には地熱発電のアイデアも進んでいるようです。

2)銅の価格は一方的に下げる方向ではなく今週,少し勢いを取り戻し、1ポンドあたり3ドル40セントまで戻りました。これで06年平均は05年対比82%アップとか。ほとんど倍増に近いですね。
これほど銅価格アップで、銅鉱山だけでなくチリの国庫に入る税収入はうなぎのぼりですが、それとは裏腹に国民の間で先行き不透明感が増加し、今年は昨年より苦しいと考えるパーセントが増えています。
もちろんそれには根拠があって,失業率がジリジリ上がっているからです。

3)チリの自然環境保全は最悪だ。環境保存庁は全く機能していない。企業の立場にたって見ているだけだ。国会議員が声を大きくしてクレームしています。そうだろうな、野党の議員は根拠のあるなしに関わらず政府の仕事を否定するのだから。と読者の皆さんが思ったら,それは間違いです。この厳しいコメントだしたのは野党でなく与党の議員です。バチェレットが各党の党首にもう少し議員の統制をしてくれませんかと言いたい気持ちもわかるような気がする。しかし逆にそれほど現在の政府の政策はあやふやなところにあるのが分かる。

4)物価高
チリの物価高が証明されました。世界の都市の物価を調べる調査でサンティアゴは南米で3位の物価高。何しろ前回より38ポイントも上昇です。
世界129位だったのが堂々の91位にランク。そんなもん、上昇せんでもええと言いたいところ。この調査でモスクワが東京を抜いたんですよね。


(一般)
1)政治の項の、国民の安全と関連しますが、チリでは最近,ネオナチというのがはやっています。流行っているというのか,注目されているというのか、分かりませんが、昔のドイツのナチを真似したグループで、警察や軍隊の人間にもその流れが浸透しているとか。ところで同じようなグループにスキンヘッドと言うのがあって、どういうわけか、憎みあっています。似たような外見,似たような全体式思考方法なのですが,お互いに襲いあって,死人まで出ています。
そう言えば,昔日本の学生運動で中核と角マルが内ゲバと言って殺しあった時代もありましたね。読者の皆さんは知らないかな?
チリの中にはユダヤ系の人間が5万人いますが,彼らはこのネオナチの台頭を注目し,政府は彼らを非合法グループに指定すべきとしています。さらに隣国アルゼンチンの元大統領メンネムはシリア系ですが、チリの中でも野党UDIの中心人物モレイラ、チリ大学の法学部部長のナウムなどはアラブ系もしくはそのシンパで、彼らがこういった反ユダヤ運動を放置する基盤を作っているとしています。

2)サンティアゴ市内でインカの遺跡が見つかっています。もちろんインカはチリの中部まで支配権に置きましたから,サンティアゴからそれが見つかっても不思議はありませんが、キリクラとウァチュラバで発見なんて、私の職場の近くですから不思議な気がします。
スペインがここに入る前にインカで当地を支配していたのはキリカンタだったとスペイン人が書き残しています。それが現在の地名キリクラになったのでしょうね。
それよりもう少し驚く話題はブラジルでストーンヘンジが見つかったというニュースです。アマゾン河口地区のアマパで、石を丸く並べた遺跡が見つかり2000年前のものと推定されています。やっぱりアマゾン地区にも古い遺跡が見つかり始めた!


(スポーツ)
1)チリとは直接関係無いのですが・・・、Wカップの話。南米がベスト4に進めませんでしたね。アルゼンチンの試合は会社の会議室でこっそりテレビを付けて誰かが見ていたのですが、延長でもけりがつかず、PK戦になった頃はもう公然と多数の社員がゲームを見ていました。私も昼食を終えて、事務所に歩いているとその会議室に(たまたま)ぶつかったので、見てしまいました。しかしアルゼンチンを応援するチリ人は半数に及びません。同じ南米というより、あいつらはいつも態度がでかいから、ここは相手側を応援しようとなるわけです。
ところがブラジルの場合は大半のチリ人が素直に応援します。この辺のあやが面白いところ。(私もその平均的なチリ人と同じように反応しました・・・)もっとも両方ともころっと負けて実力世界一というのは口先だけだった事を暴露しました。
もちろん、サッカーの話題は世界的なWカップだけではありません。チリを代表する2大チームが激突した前期リーグの決勝戦は話題のトップでした。水曜日の1回戦はコロコロが2対1で勝利しました。日曜日の2回戦は逆にラ・ウーが勝ち,勝敗はその後のPK戦になりました。何だかWカップの試合みたい。で、最後はコロコロの勝ち。喜んだコロコロ・ファンがクラクションを鳴らしながら街を走っています。私のアパートの近所もそういう車が走っています。夜になってイタリア広場はコロコロ・ファンで埋め尽くされて,いつものように近くの店の略奪が始まって警察の出動。チリのファンも進化がない。
試合の行われた国立競技場も久しぶりに満員でした。国内戦なら誰かが喜べるからいいですね。

2)テニス
残念でした。ウィンブルドン大会に参加したチリの選手は誰も3回戦に進めず早々と敗退。又のお越しをお待ちしておりますと言われてしまうだけでは歯がゆいですね。


以上