チリの風  その178  06年5月29日-6月6日

チリの風  その178  06年5月29日-6月6日

日曜日,私は日本人学校の子供たちと山登りをする予定でしたが,雨で中止。まぁサンティアゴにとっては恵みの雨ですから,文句は言えません。山頂付近は雪で真っ白です。
ところでWカップの話題が,メディアで大きく取り上げられるようになってきました。一方チリで行われているサッカーの素人世界選手権に参加した日本チームは土曜日の3位決定戦に勝ちました。30台の若い選手は他国の選手と全く見劣りしないプレーを見せ日本の躍進を感じさせました。おめでとう。
それからエジプトの旅最終回(その4)http://www.geocities.jp/peter_fujio/viaje/viaje23.html を掲載しました。後は写真を原稿の中に入れるだけ。誤字脱字を見つけたら教えてください。


(政治)
1)しかしバチェレットは怒っているでしょうね。もしくは苛立っている。同じか?時事マンガに彼女が計算機を手に奮闘していて、秘書に「ブッシュから電話が来たら頭痛で出れないと言ってね」だって。
彼女は、今週はアメリカ政府発言を巡る国際問題に集中しようとしていたはずなのですが、高校生問題が全国的に発展拡大してしまって、とにかく全国の高校で授業が行えない状態ですから、もうそれ以外は何も出来ない状態でした。
その中で注目されたのは

 a)デモ隊に対する警察の警備が過剰で市民の批難を受けた
とくにテレビ局などの報道陣に殴る蹴るの暴行を加えたのがニュースにでてしまい、批判の波を受けて警察軍は責任者を処分しました。

b)文部大臣ではおさまりが着かずバチェレットが全テレビのネット網を使い,政府方針を説明。生徒の要求を大半のむことで事態の収拾を図りました。新聞発表ではそれは年1億4000万ドルに相当らしい。
ここまでは学生側の全面勝利になっています。

翌日の3流新聞のトップは「お母さんが子供の面倒をみなくっちゃ」でしたが、それでも生徒は納まらず、来週月曜日に全国ストを呼びかけています。

さて、新聞,テレビを見たり聞いたりしたことや日常のチリ人との会話からいろんな状況が浮かび上がってきます。

a)学生代表の16.17歳の学生は年齢は低いが立派に見識を持っておりカメラの前で自分の意見をしっかり述べることができる。それも言葉使い、語彙など大人顔負け(チリ人がそう認識している)

b)しかし既に2週間も篭城している生徒たちには疲労も高く,また事故も何件も起こっており、このままのスト,占拠の継続は混乱をもたらすばかりで得るところは少ない。

c)普通,政府の足を引っ張るのは野党側ですが,今回の学生運動には野党の影がほとんど出ていません。それは当然で、昨今の銅の価格の高騰から国庫に入る収入は膨大ですが,それは同時に軍事予算増大に連結しています。したがってこの機会を利用して,教育や医療機関に予算を回し軍事予算は維持(急増ではなく)にすべきです。それを防ぐため野党側はこの大問題に口を出してこないわけ。

それより逆に与党内での足の引っ張りあいが見られる。また文部大臣(チリでは教育大臣となっていますが)の無能ぶりも見られました。文部省を引っ張る力も経済省と組んで事態の解決を図る力も無かった。
私が大学生だったころ、1968年ころから全国学園闘争が始まり、結局その年の東大入試が実施不可能になるなど、混乱を極めました。
その頃が懐かしいと言う気はありませんが、現在のチリもそんな状況で、彼らの要求が次第にレベルアップしてきて、もはやバス代とか大学入試を無料にせよだけでなく,教育基本法の改正から教育水準を如何に上げるかになっています。
彼らがこれほど全国的な戦いに持ち込めたことは世間一般の支持を受けたからで、まず貧乏な生徒の救済から始まって、それを拡大して教育全般の問題にしたことでしょう。TNVテレビのニュースで学校実態というのが報告されましたが(TVNというのは日本のNHKで、政府の側に立っている放送局ですが)それを見ると、300人の生徒がいる学校でトイレが3室しかないとか、校舎の天井に穴があいており、雨が降ると傘が必要なんて、チリの教育の現実は想像以上に酷いものでした。これをチリ人と話すとサンティアゴでも貧しい地区のグランハとかプダウエルなんかもっと酷いところもあるらしい。そういう人権的な見地から,一般社会,また父兄の賛同者も多く、また教師まで巻き込んだ戦いになったのが勝利の原因でした。
数校から始まったストも現在ではチリ中で授業を行っている学校は無いところまできました。ストに反対して授業を継続していた学校に投石があり,ストに入ったと言う話もあり???
学生のこれほど広範囲な戦いはチリでは30数年前の1970年代前半から無かったことでした。
そしてペンギンの愛称で呼ばれる数人の学生代表は、毎日テレビに写っていることから人気者になってしまい、スター扱いです。
ここまでは確かにチリの教育姿勢の是正にプラスに働いていますが,来週から更にこのストが継続されると、何が予想されるか?
・学生側の足並みの乱れ(強硬派と妥協派)
・外部からの干渉(ネオ・ナチグループがストライキ学生を襲う気配)
学生運動を利用した犯罪グループが町に出て投石,商店略奪に走る
・多数の学校で、年間に決められた授業日数,内容が実施できない
結局今より悪くなるだけで, せっかくの成果が減少すると考えられます。
問題になっている教育基本法(LOCE)の問題ですが、教育の一般化を図るため(底辺を広げるため)ピノチェットの時代の最後に、学校運営を一般に売り出し(?)、学校設立の案を政府に持ち込んで費用を出してもらう事が行われました。つまり中小企業援助のようなもので、これを利用して学校長になった人間が政府援助を受けながら学校施設の拡充などを図らず,またその官公庁による監察も上手く行われていないやに聞きます。やっぱり政府側にも問題があるわけですね。2005年にも教育改革が国会審議に登りましたが否決されています。
2003年の世界的学力テストで国語の理解レベルが低い生徒の数はトップはフィンランドで2%、日本は2位で3%,ところがチリは下位に沈んで20%の生徒がスペイン語を良く理解できていないらしい。
ここで思い切って教育改革を図るのがチリ百年の計ですよね。がんばれ!
でも月曜日から授業に戻った方がいいですけれど。

2)隣りのペルーは4日が大統領選挙の投票日。それに先立っていつもの調子でチャベスがペルーの現大統領トレドを、彼は素晴らしい、最近にない大統領だ。何しろ任期の間,全く何もしなかった。これほど何もしなかった大統領を私は知らないと言いたい放題。トレドはチリと組んでアメリカ機構にチャベスを訴えたいとしています。チリの尽力要請ってどういう意味でしょう?ところでフジモリはこの選挙に国外投票しないようです。
アルゼンチンはチャべス組と合流すると見られ、いらだったアメリカがチリに圧力をかけている様子が目に浮かぶようです。


(経済)
1)毎月発表される経済見通し係数(IPEC)が、4月,5月連続で下がりました。チリ人の間で先行き不透明感が広がってきたことを示すとされています。もっとも先行き感なんて数字で表されるのか、私には少し疑問ですが・・・
確かにドルの価値が下がることによって, チリ国内での産業が大打撃を受けるのは当然で国内産業保護の観点から,為替の安定が望まれます。国内工業生産は今年に入って既に1―4月で対前年2.5%ダウンとなっています。

2)最近の14ヶ月で始めて失業率が上がりました。2−4月の平均失業質は8.3%でした。経済学者はこれを季節的な要因のものとあまり深刻には受け止めていません。


(一般)
1)アメリカのレストランのチェーンがチリにも進出しています。そのアメリカ店(マイアミ)とチリ(ラス・コンデス区)の価格比較をしたところ、なんと多数の品目でチリの方が値段が高いことが分かりました。そうか商売人って頭が良いものだ。そんなチェーン店ってアメリカでは中のレベルなのに、サンティアゴでは高級イメージで商売しているわけだ。
で、それにだまされて,大半はその地区で働く高級サラリーマンですが、高い金を払っていいかげんなアメリカ料理を食べているわけです。
例えばルービー・チューズデイのステーキはマイアミで8008ペソ、サンティアゴで8990ペソとか(交換比率は6月2日のもの)私もそのレストランで食べたことがある。不愉快だ。

2)プニャロレンで不法に空き地に住居を建てて住み着いていた家族の家を撤去する作業がまた延期になりました。警察を入れて撤去作業が始まっても、それらの不法住民の抵抗が激しく,今回も不成功。これで2回目の失敗。
一部の住居を壊しても,すぐのそこに違う家族が入り込むようでは,チリ法治国家としての面目が無い

3)サンティアゴの自家用車の消費
平均1日46kmを走り、月に14万ペソ(3万円弱)の出費があるらしい。この中にはガソリン,駐車場,高速通行料、保険などが入っているとか。


(スポーツ)
1)サッカー
  しかしチリのナショナル・チームも期待されていないときは良くやります。監督のアコスタが理屈から行くと3連敗だろうと言っていたのに欧州遠征で一回も負けずに帰国です。アイルランドに勝って,アイボリー・コーストとスエーデンに引き分けですから。選手も自信をつけたでしょうね。Wカップ参加国と互角の勝負ですから・・・・

2)テニス
  ATPのフランス大会でチリの3選手は全員1回戦突破。今年はどこまでいけるかと期待されましたが,ゴンサレスカップデビレは2回戦で敗退。マスは3回戦で世界トップのフェデレルに惜敗。このためゴンサレスはATPランキングのトップ10から陥落。


さて3日の土曜日、私はサンティアゴ日本人学校の講堂で在外公館長表彰を日本大使館から受けました。これからもスポーツを通して日本人学校の子供などの健全発達に協力するとともにチリと日本の掛け橋になっていきたいとお礼の言葉を述べました。その意味からもチリの風もさらに充実して継続していかなければと思います。よろしく。

以上