チリの風 その152 05年11月21日―27日

チリの風 その152 05年11月21日―27日

水曜日、珍しく雨になりました。普通チリの中央部はこの季ほとんど雨が降りません。ちょうどその日, 海岸部の第5州に出張に行っていましたが, そこもかなり強い雨で難儀しました。でも翌日から夏の日差しに戻り, 最高気温30度, 最低気温10度という感じの日が続いています。


(政治)
1)不思議やな。選挙がぜんぜん盛り上がりません。国民の間で熱気がないのです。今週大統領選挙関連で話題になったのはバチェレットがピニェラを右にも左にも方針を換えるカメレオンのような政治家と決め付けたときです。もちろんこれはピニェラが第1次予選を勝ち抜くと見込み、今から彼を叩きに出たものですが、ただしこのように特定の人間を批判することは彼女の人間性を疑わせることになり、この作戦は彼女の一人負けに終わりそうです。彼女は自分の方針を貫くべきで、他のスタッフの持ち込むアイデアをいちいち応対すべきではないと思いますがどうでしょう。
もう完全に「12月の選挙では50%以上を獲得する候補は出ず、上位2者(バチェレットとピニェラ)で1月に決選投票」というパターンになってきました。
ところで野党側に二大政党UDIとRNの力関係がこの2.3ヶ月でガラッと変わりました。以前は大統領候補ラビンを有しているUDIが圧倒的に支配していたのですが、ピニェラが立候補してから風が変わり、RNはUDIとほとんど対等の力を見せています。しかしリーダーの影響力って恐ろしいものがあるわけですね。これは国会議員選挙にも当然影響するでしょう。
最も与党の方でも同じで、キリスト教民主党(DC)はピニェラに自分たちの領域を侵されていると過剰反応し、テレビの宣伝スポットでも彼を馬鹿にしていたら、同党の中から党首を批判する声が高まり内容を変更・・・政治の世界は通常の常識は通じません?

2)さてチリでは、投票は権利だけでなく義務なので投票率はほぼ100%ですが、恐らくこの義務が外れたら、最初のときは90%,2回目は70%,それから後は日本と同じく50%となるでしょうね。
(義務と言うことは行かなければ後で呼び出しがかかり、罰金が待っています。裁判沙汰ですよ。で、病気の人とか、投票所から遠隔地に出張している人などはあらかじめ警察に届出を出しておく必要があります)
それから選挙の立会人も義務です。これに選ばれたら当日一日中、投票箱の傍にいる必要があります。今回それに当たってしまった人のうち、約20%が行けない理由をつけて届け出, これが認められました。つまりまたこの後に別の人がこの厳しい宣告を受けるわけです。良かった, 私にそれがまわってこなくて。それから悲劇なのは、突然の病気などの理由で当日立会人が欠場したら、最初に投票に来た人間がつかまります。これも逃げようとしたら会場を警備している警察に逮捕されます。で、「今日は魚釣りに行くから、まぁ早めに投票を済ませておこう」としたおっさんがとっつかまって、泣く泣くその日の魚釣りを諦めると言う悲劇も毎回繰り返されるわけです。こんなの全部, 市役所の人間にやらせればよいのです。
軍隊のサービス(兵役)の義務とか、この選挙関連の義務とかチリにはまだまだ民主化することがありますね。

3)首都サンティアゴの中心のイタリア広場で山のようになっていた立て看板がある朝、一掃されていました。きれいなもの。すっきり。これを管轄するのは区役所ですが、誰かが看板除去を提案したら、区長が即断したのでしょうね。しかしこれはどういう意味なのでしょう、野党側は大量の資金を使ってでも国民に変化を訴えるために広告は必要。一方、政府側は選挙が盛り上がらず、現状維持なら文句はない・・・。後で聞いたら、これは毎晩看板を片付け、翌日再度立てかけることになったらしい。仕事が増えたわけです。
さて全チャンネル共通の選挙ビデオをテレビで見ていても、野党か与党側かわからないほどで、どちらも同じことを言っています。私に投票すればあなたの生活はずっと良くなりますって。マジですか?

4)それにくらべると我がピノチェット問題は盛り上がっています。なにしろ、とうとう, やっと彼が逮捕されたのです。まぁ本格的なものでなく現在調べられている不正蓄財(税金未払い)などの件に関し、裁判所は立証に値すると判断し、彼を自宅拘留処置にしたもの。とは言え、今週90歳の誕生日を迎えた彼は相変わらず元気で、彼の豪邸の前で支持派の人間が集まって騒ぎました。陸軍長官も祝福のため訪問しています。自宅拘留といっても彼は近所のスーパーマーケットに行く必要もないし、近くの丘に駆け上がることもないからほとんど不自由はないでしょう。
相変わらず人権問題でも税金問題でも傍若無人の無敵振りを発揮しています。有罪になって刑務所に入れられるなどの劇的な変化はなく、このまま進行し、裁判が終了しないうちに彼の死去ですべてが過去になるのでしょうね。

5)さてもう一方の主役?フジモリ関連では、やっと風が吹きました。それはペルーの世論調査で、彼が次期大統領選挙の2番目の人気候補者にランクされました。2位ですよ。これが4位とか5位なら、惜しかったねと一言ですが、2位ならあっさり切り捨てるわけには行きません。場合によっては首位に踊り出る可能性だってあるわけですから。もっともペルーのこの種の人気投票の信憑性について言い出せば切りがないでしょうが(私はあまり信用していません)誰かが意図的に政界混乱を図ってフジモリ2位を演出している可能性もあります。私のところにも最近チリの選挙について、この種の電話接触がありました。それは15分にも及ぶ詳細なもので、私の政治的な見解だけでなく、暮らし振りを根掘り葉掘り聞き出しました。つまり質問の精度は非常に高いと考えますが、その集計、発表にあまり信用性がないというわけです。
しかし不思議なのはそこまでお膳立てが出来ているのに、彼は動きませんでした??? まだその時期ではないと踏んだのか、今ひとつ自信が持てなかったのか。 私なら2位ランクが発表された翌日、大量動員してリマでデモをさせます。フジモリ復活の狼煙です。それから彼は不正に集めた金を大量に持っているのでしょうから、現在の国会議員にばらまいてフジモリシンパに復帰するよう働きかけるわけです。彼の得意の手段じゃないですか。それで、国会で彼の行動を縛っている法律の改正が出来るのですからね。えっ、心配するな、その手はもう既に打ってある、なるほど。
来週,彼の日本人婚約者がチリ入りするそうですが、30歳も若い彼女がサンティアゴに来たら、3流新聞のトップは彼女の写真が飾ることになるでしょう。そうかそれを待っているのか?
彼にとってベストはチリにいながら選挙活動をし、1次予選に勝ち抜き(2位に入ればよい)それでチリ政府を動かせてペルーに送還してもらうことでしょうね。
一方,ペルー政府側としては彼をこのままチリにおいてもらおうとしているように見えます。一時、フジモリを早くペルーに連れ戻って裁判で苛めるシナリオを考えていたようですが、そのほうが逆にフジモリ人気が出ると見て、ここはチリで預かってもらい次回大統領選挙の終わった後、どうするか考える手段のようです。
しかしペルーより面白いのがボリビアで、例のコカ生産業者のモラレスがベネスエラのチャべスの援護を得て政権に手が届くところまで来ています。しかしチャべスはアルゼンチンのキヒネルにも援助の手を差し伸べており、反米グループの構築に着々。もちろんこれはアメリカ政府の公認(?)を得ているのでしょう。アメリカにとってラテンアメリカで反米組織が出来ることが、なにかと国内政治抗争の時に役に立つと見ているのでしょうね。


(経済)
1)銅の高値はさすがに一服して、1ポンド2ドルを若干ですが割りました。しかしペソは堅調でドルを寄せ付けません。2002年に1ドル720ペソだったのに03年には600ペソまで快復、04年はさらに高値の560ペソ、それが最近は530ペソですからね。しかし800ペソまでもう一息と言われ,ブームのようにチリ人がドルを買いあさった時期が嘘のようです。その頃高値でドルを買った人は今ごろどうしているのでしょう?もう一方のガソリン価格はさらに下降を示しています。

2)日本関連
もし日本と自由貿易協定が締結できれば、その経済効果は国民総生産で0.5%アップの波及効果があると発表されました。
それから日本の企業がチリの会社と合弁でメタンガスを取り除くプラントを建設することになりました。03年から使用されていないゴミの廃棄処理場からオゾン層破壊のもとになるメタンを12年間除去回収する計画。

3)先週の風で, チリの裕福層拡大の話題が出ましたが, 今回は同じ話題の反対側からの見方です。CEPALの調査でラテンアメリカでは現在40%が貧困層,17%は極貧とされています。
この数字はチリの15年前のものとほぼ同じ。チリはその間,着実に貧困層の減少に成功し、05年推定で19%まで下がっています。それでもまだ3百万人が貧困層にランクされているわけです。


(一般)
1)地下鉄2号線の延長計画のうち北側2駅が完成。大統領を呼んで開通式。野党は、こんなときに華々しく開通式をするなんて選挙対策だと批難をしていますが、地下鉄建設は3ヶ月では出来ませんから,この批難は八つ当たりでしょうね。
それから先週の風で、新路線の発表をお知らせしましたが, 新聞に投書があって、税金の撒き散らしだと怒っています。メトロの乗車賃は、乗り放題で(時間帯によりますが)大体90円くらいです。
ところが、現在その運賃で黒字なのは1路線だけで、後は赤字。もし全部黒字にするには料金体系を変え、乗る距離によって運賃を上げるか(日本はこの方式ですよね)運賃を現在の2倍くらいにする必要があるらしい。しかし2倍になったら市民は誰も乗らないでしょうというわけ。つまり国民の税金を使って上品なメトロを運用しているのだと言うわけです。

2)カトリック教会問題
先年、アメリカで神父の幼児性的いたずら問題が政治問題にまで発展しましたが、現在ブラジルで似たような問題が大規模に起こっていると報道されています。それを受けてチリのカトリック教会も、先年から何人かの神父が幼児、年少者との性的関係から訴えられていますが、ブラジルで起こっているような組織を揺るがす問題には進展しないとの結論を発表しました。しかし臭いものにはフタで、カトリックでも軍隊でも問題があっても外部には出にくい構造になっていますからね。しかし下らない問題です。

3)銃器の放棄
チリでは届出さえすれば、市民は銃器を所持できることになっています。しかし一般市民が銃器を所持しても家庭内での暴発などの事故が増えるだけで、犯罪防止にもなりません。このため政府は一般市民に銃器の提出を呼びかけ、この期間の間に届けられたものは例え出所不明確でもお咎めなしとしました。犯罪組織の銃も入っているのか分かりませんが、集まった8千丁ほどの銃がこのたび廃棄処分になりました。テレビのニュースではどこかの学校の鉄筋に使われるかもしれませんって。言えてる。

4)エイズ問題
今年は世界中で感染者が5百万人増え、合計4千万人になったそうです。そして今年のそれによる死亡者は3百万人とか。チリでは感染者は6600人、今までの死亡したのは4300人です。当然毎年この数字は増えつづけるのでしょうね。


(スポーツ)
1)サッカー
国内リーグは前哨戦が終わり、プレーオフに突入。シーズン無敗だったカトリカがカラマの敵地でコブレ・ロアと対戦。敵地で引き分けしリーグ優勝への第1歩。
国際戦ではもちろん、南米カップの準決勝の話題です。チリのカトリカとアルゼンチンのボカジュニア-がブエノス・アイレスで対戦。2対2の引き分けでした。一時テレビのニュースでカトリカが2対1で勝っていると報告された時間があったのですが。来週の木曜日、我がグラウンドで第2戦。どうなるか?0対0か1対1の引き分けでもカトリカの決勝進出が決まるのですが。
翌日,私が昼食時いつものように食堂に入って職工さんの座っているテーブルにつくと、今日はサッカーの話なしだよっていわれ、カトリカの話がしたいのならよそのテーブルに移ってほしいって。彼らの大半はコロコロとラ・ウーのファンでカトリカの活躍が不愉快なのです。私はカトリカ大学の歌を歌いながら彼らの近づいていったのが嫌がられた原因。ところでカトリカ大学の校歌と我が北海道大学の校歌は同じメロディーを使っています??!!(アメリカ民謡と思われます。北大校歌はクラーク博士が持ってきた曲に有島が詩をつけた)

2)テニス
来年のデービスカップの世界グループ戦にチリは参加しますが、第1回戦はチリがその会場。でどこを会場に使用するかもめていました。開催予定地として北から、ラ・セレ-ナ, ビーニャ、サンティアゴそしてランカグアが上げられました。最終的には第6州のランカグアニなるらしい。開催地はともかく、チリ、勝てるかな?


以上