チリの風  その145  05年10月3日―9日

今年は春の出足が遅い。もう暦から言うと初夏の時期になったのに、今週始め降った雨でアンデスの山並みは真っ白。砂漠の花も何年かぶりに咲き誇っているようです。
それでも8日の土曜日の夜中、1時間時計を進め、夏時間が開始されました。日本のみなさんには馴染みの無い習慣ですが、スポーツ狂の私には待っていた夏時間。これで会社から戻ってきてから、ゆっくりマラソン練習。(今までは暗い夜の公園を走っていました)そしてそれにあわせて週末、絶好の天気でした。


(政治)
1)政治と言うより、一般の項目で発表されるべき話題かもしれませんが、ラゴス大統領はTVN(日本でいうとNHK)を厳しく批判。その内容が、何と、「最近の夜のニュースは犯罪関係ばかりで他の話題はないのかと言いたい。チリを代表するニュースはどこそこのマンションにこそ泥が入ったではないはずだ」そうでしょうね、政府が資金を入れているテレビ局が政府批判のような番組製作をしては大統領も困ります。そうでなくても野党側から、政府の無策を責められているのだから。
もちろん、これに関して一般市民からいろんな声が(賛否両論)出ています。中には「大統領の言う通りだ。チリはラテンアメリカでは犯罪の少ない国だ。もしもっと犯罪の少ない国に住みたいなら、どこかのイスラム教の国,中国、キューバに移るべき,もしその方が良いと思うなら」・・・

2)10月5日は88年に行われた国民投票の17回目記念日でした。その日、軍事政権継続可否の投票が行われたのですが、何と1970年以来18年ぶりの国民投票で、こんな盛り上がった投票は私の人生ではいまだかってありませんでした。そしてその夜、深夜でしたが、継続拒否が発表されたのです。その時のぞくぞくする興奮を今でもはっきり覚えています。

3)陸軍が共産党代表を指令本部に招いて会談。これも少し前なら想像も出来ないことですが、北風でなくやわらかい南風が吹くと旅人がコートを脱ぐと言う感じでしょう。しかし軍隊がピノチェット政権のイメージから脱出して本来のポジション(軍隊)に戻れば正常化は出来るはず。もっともかなりの軍人が刑務所に入っているし、裁判中のものもいますが。


(経済)
1)石油価格の高騰からチリの9月の物価上昇率は過去数年無かった1%を記録、今年に入っての合計は3%と予想以上の高率になりました。ペソ高もあってドルベースでの輸出は前年対比31%アップと順調そのもの。
銅の価格はさらに上昇を続けていますが、金の値段も今週、過去18年間で最高の水準まで上がっています。で、チリの年間経済成長率は予定どおり6%を達成しそうです。
ただし中銀はこれに対抗して金利を再度上昇。今年に入って6回目の上昇。年率4%になりました。これでインフレにブレーキをかけるわけ。
一方、ペソは米ドルに対し過去5年で最高のレベルになっています。

2)コデルコの株式会社化を政府が拒否
コデルコの総裁が民営化に先立ち、国営のままにせよ株式会社化したいと発言しましたが、政府はただちにその意見は政府の政策と一致しないと一蹴。どんな手を政府は考えているのかな?

3)サーモン問題
しつこく続いています。基本的に、私はサーモン産業はチリにとって大事な産業と言う認識をしています。銅産業よりずっと規模は小さいにしてもチリの特質を生かした世界で通用する数少ない産業です。
さて環境汚染問題ですが、日本で昔、足尾銅山事件がありました。チリでも遅かれ早かれそういった事件が出るはずです。チリの銅山は環境汚染について欧米のマインほどナーバスになって対応してはいません。従ってチリの空気、水の汚染は明白でしょう。現在、そうした汚染規制に関する法案が欧州連合で検討されていますが、それがチリにどう影響するか注目されています。
それと同じ事がサーモン養殖でもおこっているわけです。新聞に投書がありました。「世界の赤潮問題はその近くに水を汚す産業があるから」これはサーモン養殖規制側の論理です。それに加え、チリのサーモンが先年、欧州で添加剤問題から締め出されそうになったことがあります。つまりチリ近海の赤潮問題はサーモン養殖産業が原因、おまけに成長促進のための添加剤使用で汚染増加と言うわけです。
そうそうサーモン組合の人から、投書があって、「確かに環境汚染をしているサーモン業者もいるが、それは組合員ではない」・・・これはあまり説得力が無いですね。

4)ルクシック・グループとペルー司法の戦いは今週進展なし。リマでの裁判はチリ側の出席がないまま進んでいます。


(一般)
1)遅れていましたが、政府の主導でエイズ・キャンペーンが始まりました。もう何年も前から始まったものですが、何回も回数を重ねてくると、エイズにはコンドームと言う連鎖反応が出てくるようになりました。カトリック教会は相変わらず時代遅れの批判をしていますが、私もすっかりなれたみたいで初期の拒否反応が出なくなりました。そうですよね、コンドームでエイズが防げるなら政府の援助でもっとコンドームを安くして誰でも購入できるようにすべきでしょう。

2)サンティアゴが世界127の都市の中で住みやすさで64位にランクされました。
サンティアゴは環境設備が整っている、文化的にレベルが高い、土地家屋などの資産購入が容易などの良い面と、教育・医療関係の面で遅れているなどとなっています。近年の犯罪の増加はあまりランキングに影響しなかったようです。先週、サンティアゴにきた佐藤さんの感想では悪い点としてスモッグがひどい、道路にゴミが多いという指摘がありました。スモッグに関しては指摘の通り(彼女が帰ってすぐ雨が降って空気は綺麗になったのですが)ゴミに関して言えば欧米、日本どこでも人々はゴミを道路に捨てています。ただ掃除の人がそれを綺麗にしているので目立たないだけです。サンティアゴは掃除の人より、ゴミを捨てる人のほうが多いのが問題です?? バンクーバージュネーブなどが高い評価を受けています。どちらも私は滞在した経験がありますが、サンテァゴもそれらに劣らない良い街と思うのですが・・・。

3)地下鉄4号線の試験走行が開始されました。これでサンティアゴの南部プエンテ・アルト方面の人には大きな恩恵。現在バスで中心まで出るのに1時間半かかるのが45分以内に短縮ですから。
本当にサンティアゴのメトロは安全快適快速おまけに運賃が安い素晴らしい乗り物です。東の方面には現在は陸軍学校が終点ですが、予定では私の住んでいるロス・ドミニコス方面へ伸びてくるとか、楽しみ。

3)日本にも遊歩道ってありますよね。例えば、熊野古道。私もその一部は歩いたことがあります。チリでもこの種の歩道の整備が進んできて、チリの道として、世界最長の歩道コースになるらしい。何しろ全長1200KM以上ですから。数年先に完成するそうです。そうか、私もそれを何ヶ月かかかって全部歩いてみるか・・・夢みたいな話ですが。

4)写真展  チリを100の視点から見るというタイトルで写真展が開催されています。モネダ宮殿の前の憲法広場がその会場で、1920年代から現在までの100点の写真が展示されていました。
現在チリの貧富の差は激しいと言われますが、1930年代の農村の写真はまるでアフガニスタンのそれかと思われるほどで、当時の農村の暮らしは厳しそう。それからそれらの多くの写真を見ていると、チリ人と一口に言っても多くの人種が混合して住んでいることが良く分かります。スペインを中心とした欧州系のほかに南北の先住民(北のアイマラ、南部のマプチェさらにイースター島にはまた違った人種が)その他にアラブなど中近東系までいるわけですから。(アジア、アフリカ系が来たのは比較的最近の話)
1973年軍事革命時のモネダ宮殿の写真もあって、それを見ながら目の前のそれと比較すると当時の爆撃のすさまじさが感じられました。
その日、モネダ宮殿が一般市民に開放されていましたので中に入ってみました。ナランホ広場と呼ばれる小公園はその名前の通りオレンジの木があって実がたくさんなっていました。それらを見ながら、私の小説の第3作「9月11日」の構想を練っていました。

5)自殺率の増加
チリの近代化に連れて、自殺率が急上昇。1990年からの15年で何と2倍に。とは言え、自殺の多い、例えばハンガリーで、人口10万人で45人にくらべ10人と格段に低い。ラテンアメリカではキューバ,ウルグアイなどが首位を争っている由。こんな競争には勝ちたくありませんが。


(スポーツ)
1)サッカー  盛り上がらなかったWカップの南米予選の話も、南米大会の最後から2番目の試合ですが、試合の前日になるとさすがに職場でも話題になりました。で、勝ってほしい思うけど。今のチリの実力ならコロンビアには勝てないと私。そんなことは無い、きっとチリは勝つ。じゃ賭けをしよう。と言うわけで、私は整備工場の職工さんたちと賭けをしました。で、その結果は・・・
この試合に負けるとWカップに参加する権利が全くなくなるチリにとって最後のチャンス。敵地バランキジャに乗り込んだチリチームは引き分けを狙った防戦態勢。しかし前半に1点取られてしまう。普通ならこれで終わりなのですが、死ぬ物狂いのチリは同点を狙って作戦を変更、思い切って攻勢に出ます。これが当たって、互角の勝負になり、後半早々同点ゴール。私はいつもの通り、窓を開け道路に向かってチリのゴールを絶叫しました(後でアパートの管理人から、また叫んでいましたねとコメントあり)こうなると風が向いたチリのチャンスで、焦るコロンビアを追い詰めます。しかし、あわやという所が3回あったのに3回とも決めきれず、結局同点引き分け、それでも勝ったつもりで選手は帰国。いよいよ来週の水曜日、南米予選の最終戦でチリが勝って、近くの順位の国が負けるとチリにチャンスが回ってくると言う微妙な所にいます。

2)ゴルフ 女子プロゴルフツァーでチリのペッロット選手がアメリカ・キャリフォリニアで行われた大会で優勝。彼女にとってプロでの初勝利になりました。


チリとは直接関係ありませんが、ブラジルのアマゾン川が30年ぶりの旱魃でピンチです。川を使っての交通が遮断されて多くの村が孤立。アマゾンクルーズの豪華旅行ももちろん中止です。しかし北米、中米で台風の影響から洪水が起こっているのに皮肉なことです。アマゾン・ジャングルの農地への変換が余りにも急激に起こっていることがこうした気候の変化を促進するのでしょうね。


以上