チリの風  その140 05年8月29日―9月4日

火曜日、雪が降りました、セントロに。サンティアゴの中心部に雪が降るのは今年初めてです。もっとも降雪はたったの数分でしたが。
その後、先週と同じく週末になって雨。今年は冬が粘っています。で、土曜日、雨の中、大使館に衆議院選挙の投票に行きました。さて次の日、雨の上がった日曜日、近くの山は雪で真っ白。スモッグもないので透明感が充満し、まるで今までかけていたサングラスを外したかのよう、抜群の景色です。世界最高!の声も大げさではありません。でも麓のほうまで雪が積もっていたので、山登りは中止にし、マラソン練習をしました。疲れました。


(政治)
1)しかしTVN(チリのNHK)が今週放送した特別番組「マルビナス(フォークランド)戦争」はインパクトがありました。あの戦争は1982年のことですからもう20年以上前のことですが、いかにチリが英国に協力したかを克明に報道しました。(既に以前のチリの風で書いたようにイギリス側では当時の様子は書物で発表されています)
チリ、アルゼンチン、イギリス軍の最高幹部を登場させ、その時期の状況を説明させるだけでなく、その戦争に参加した兵士にも発言させていました。その中でアルゼンチン兵士が、とにかく腹が減っていたので、フォークランドでイギリス人の家に入っていって何か食わしてくれと頼んだとか、着替えの服がなかったので戦争中最後まで同じ服を着ていたが、濡れた服を着ていると夜間は寒さで凍え死にそうだったと語っていたのが目を引きました。これでは勝てるわけがありません。また戦闘は夜間にも行われたそうで、これは攻撃側にも危険は大きいが、訓練されているイギリス兵が夜戦を戦えても、プロの兵士でないアルゼンチン側は右往左往するだけだったらしい。
ここまでだけならたいしたことはありません。問題はそれからです。その頃、アルゼンチンは政治的、経済的に行き詰まっていましたが、それを戦争で打開しようとしたわけです。そして隣国チリに攻め入るより、マルビナス諸島を取り返すほうが国民へのインパクトが大きいと見てイギリスと開戦したわけです。大統領がこれは戦いの始めにしか過ぎないと発言しているので、この島を取り返したら、次はチリにも侵入しようとしていたことが分かります。
その状況下、チリも戦闘準備を整える必要があったわけですが、何しろ彼我の力量に大差があってまともに戦える相手ではありません。番組に出てきた当時のチリ空軍長官マテイの話では最新鋭戦闘機をアルゼンチンは約百機、これに対してチリは8機保有していたとか。
で、何としてでもアルゼンチンにチリとの戦争を始めさせないためにはここでイギリスを勝たせなければならなかったわけ。
彼は私はアルゼンチンがこの戦争に負けるよう自分たちが出来るすべてのことを行ったと言っています。
南米ではペルーなどあらかたの国がアルゼンチン支持を明白にする中でチリは中立を取る姿勢を見せましたが、水面下の接触を図り、イギリスの要請で諜報活動を共同で開始。最新鋭アンテナを設置しアルゼンチン軍の動きを全部把握しイギリス側に報告していたらしい。特に空軍の戦闘機の動きは克明で、離陸の前に動きを全部つかんでいたとか。その基地になったのはサンティアゴの民家だったと言うから私の住むラス・コンデスあたりの豪邸を借り上げていた可能性が高い。
チリも当時軍政だったので、いちいち国会に相談して、なんてことは不必要。ピノチェットと最高幹部数人の間ですべてのことが決定されたに違いない。当然、軍部内部でも一部の人間しか情報を知らされていなかったはず。
当時チリとアルゼンチンの間にはいくつかの国境問題が存在した。(カンポ・デ・イエロとか)パタゴニアフエゴ島なんか不自然な国境線のため自国内の領土に行くのに他国を通過する必要がある(このあたりはこのHPに記載されている、今年始めに訪問した私のウシュアイア旅行記を参照のこと)従い、開戦理由は幾つも存在した。
私は軍事政権に反対で、当時、何とか民主政府に出来ないかと考えていたが、このときキリスト教民主党(DC)なんかが政権をとっていたら、イギリスへの応援はこれほど本格派しなかっただろうし、途中で秘密がばれたかもしれない。そしてチリとの戦火が開かれておれば、一方的には負けなかったかもしれないが少なくともフエゴ島の南部は取られていたと推定する。
これって、私はピノシェット軍事政権を評価しているのかな?
このテレビ番組の翌日、アルゼンチンの主要新聞はこの番組を大きく取り上げ報道。一部のアルゼンチン人はもうすんだことと軽く流しているが、国民の間に反チリの空気が拡散したのは否めない。政府は表立ったチリ批判をしていないが、報道の翌日、チリへの天然ガスの供給の削減を発表。すばやい報復・・・。(ただ一日だけで、その次の日にはこれを解除。単なる嫌がらせ準備だったようです)
チリ側では、軍人は死ぬまで、制服を脱いでからも機密事項の漏洩をするべきでないから、今回のマテイ元空軍長官の発言は不適応とする声がある。新聞の投書欄に、マテイの発言内容が真実か虚偽かの詮索をするより、この発言で両国間の関係に傷がついてしまったことが重要。従い彼に罰則を与えるべきではないかとありました。さっき私が書いたように当時DCが政権をとっていたら、この投書主のように、悪いことはしてはいけないとしてイギリスとの秘密提携は行われなかったでしょうね。
ピノチェットが人権問題などでイギリスで逮捕されたとき、マーガレット・サッチャーが彼を訪問し、あなたがたの協力がなかったら、我が軍に多大の死傷者が出ていたはずです。本当に協力ありがとうと言ったのが記憶に新しい。 
私は79年にチリに入りましたが、この戦争当時チリに住んでいました。しかしこの紛争よりもっと身近に危機を感じたのは、79年当時で、その頃ペルー・ボリビア連合国がチリと戦った太平洋戦争の100年記念にあたり,領土を取られた両国が再度チリに挑戦と挑発していた頃でした。
しかし人類の歴史はなんと同じことを繰り返しているのでしょうか。

2)ピノチェットの子供が仮釈放になりました。
もう色あせたニュースのようですが・・・。この先,子供や奥さんなどを攻めず司法はピノチェット本陣へまっすぐ攻め入ってほしいものです。


(経済)
1)サーモン養殖について
新聞のトップに一アメリカ人がチリの鮭養殖がこれ以上増大しないよう望むと発言したことが載りました。えっ何?アメリカ人って誰?
そのアメリカ人トンプキンスというのが、チリで一番の大地主で、南部に広大な土地を所有しており(30万ヘクタール)、また自然保護に精力を傾けていることからきているわけです。彼は広大な土地を自然公園として国に寄付したいとしています。
サーモンというのはチリ南部の主要産業で、直接に養殖産業に従事している人間が3万人。今年前半で8億ドルの売上を記録しています。
鮭の養殖業界代表はこれに興奮して反発し、何も分かっていない金持ちヤンキーの帝国主義的発言を認めるわけにはいかないと意味不明のコメントをしています。しかし代表の彼には悪いが、鮭の養殖は,例えば鮭に与える餌が海底に沈殿堆積するとか、環境汚染にいろんな形で直接間接に関連していることは明白で、現在加速中の環境汚染の速度を落とすことと、汚染を洗浄する(軽減する)方法の確立をする必要があると思いますが,どうでしょう。彼らはチリ近海の水を勝手に(?)無料で使用しているのですからね。

2)ガソリン代値上げ阻止
今週はコロンビアに外遊しているラゴス大統領ですが、出発前にテレビカメラに向かって見えをきりました。この18(建国記念日の9月18日)を前にしてガソリン値上げがあり国民が困るだろうという報道が聞かれるが、それは全くの誤りだ。皆さんの前ではっきり言います。ガソリンの値上げは許しません。拍手を受けて気持ちよくなった彼はなおも得意満面に続けていました。
外から入ってくる原油の値段は上がるのでどういうメカニズムで値上げ分を吸収するのか大至急な調整が必要です。
しかし石油の値段が毎週上がりますね。短期的には台風の影響が大きくアメリカ市場にあるとは言え、世界的な生産消費がそれほど急激に変化しているわけではなく何かの思惑で動いているのは明白です。で、それを阻止しようとする勢力が出てこないのが不思議。

3)チリ経済が好調のおかげで失業率が順調に減少しています。05年の5月―7月の数字では過去12ヶ月で1.1%減少し、8.6%になりました。


(一般)
1)酔払い運転
別に珍しいことでもないです。それが若い女性だったとしても。しかしその女性が次の大統領になるだろうといわれるバチェレットの娘だと話が変わってきます。バチェレットは一般市民と同じく自分の娘も法の前に裁かれなければならないと発言。固いところを見せました。
で、その娘の写真が新聞に出たのですが・・・美人じゃないのは別に問題ではありませんが、彼女は顔にピアスをつけていました。チリでも目、口、ほほ,舌などにピアスを付けている人を見ますが、気持ちよいものではありません。職場でこのことを若い社員に聞いてみました。「フジオさんなら、どこから見ても目立つけど(会社でただ一人の東洋人)、私らは人目に立つには何かする必要がある、それが、顔にそういったピアスを付ける理由ですよ」
で、大統領(になりそうな)の娘がそんなことをする必要があるのか、
彼女はそんなエレガントでないことはしないように娘に教えないのかと心配になります。
(私の子供もそんなことをしませんように!) 

2)婦女暴行
これもチリでは珍しい犯罪ではありません。それも年少の幼児に対する性的犯罪も良くあります。しかし今週発覚したものはその中でも出色?のものでした。何しろ49歳の男が自分の孫に性的な暴行を加え、さらにショッキングなのはその男はエイズの患者で、さらにその男は教会に通って信者の間で信望が高かったと言うのです。どうなってんの?

3)チリではなく日本のニュース
会社の食堂で職工さんがフジオさん昨日のウルチマ新聞見たと聞いてきました。それは三流新聞で、もちろん私は見ていません。日本のニュースが1ページの大きさで掲載されてるよって。その新聞を取り寄せてみると、フーム確かに大きなスペースを割いて神戸の山口組が新しい組長を選出したとあります。上半身裸で全身に刺青をしている塩田という男の写真がのって異様なことこの上なし。しかし日本を代表するニュースがこれとは・・・。


(スポーツ)
1)サッカーWカップ南米予選
何とブラジリアで行われた試合でチリは0対5でぼろ負け。しかしこのブラジルに少し前、コンフェデレーション杯で引き分けた日本の実力はすごい。ドイツのWカップでは日本の応援をすることにしましょう。
それに比べるとレベルの低いニュースですが、クラブ別南米カップの2回戦の第1試合がチリのカトリカとペルーのアリアンサ・アツレチコの間で行われ、カトリカが5対0で勝ち、次のペルーでの第2戦の前にほぼ3回戦進出を決定しました。今年のカトリカはここまで全勝、無失点です。(土曜日の国内戦で引き分けしてしまいましたが)

2)テニス
USオープンに参加したチリの3選手は全員が1回戦を勝ち抜き、国民を喜ばせました。さらにその内のコンサレスとマスが2回戦も勝ち抜き上位進出中。

3)ボート
日本で開催中のボートの世界大会でチリ代表が大健闘。金メダルは逃しましたが、銀メダル。ちゃんと結果を出しました。えらい。


以上