チリの風 その138 05年8月15日―21日

月日の立つのは早いもので、もう8月も半ばを過ぎました。私たちチリの住民は8月が過ぎて9月になれば・・・と常々思います。9月になればもう寒い冬は終わり、建国祭の楽しい行事も一杯あるし、歌って踊って酒を飲んで。
で、その9月がもうすぐですから、後しばらくの辛抱。もっとも世の中そんなに単純ではありませんが。
たしかに朝,仕事に出る頃、少し前真っ暗だったのに、最近東の空が明るくなってきました。(私は朝6時45分に家を出ます)
もっとも今週、時速100キロという強風の日があり、街路樹があちこちで倒れ、近くに駐車していた自動車を壊す事故がかなり出ました。運の悪い人って、いつもいるんですよね。気の毒。
さて来週発売の雑誌オレまる9月号に私の原稿が掲載されることになりました。日本にいるみなさん、本屋さんで手にとって見てください。立ち読みだけでなく、必ず買ってくださいね。編集の田島さん、これでいいですか?
この他、日本の観光関係のメディアからもチリに関する執筆依頼があり,原稿を提出しました。私はプエルト・ウイリアムとかチロエとか北部銅山に関する記事が書きたいとしたのですが、先方からはオーソドックスに首都サンティアゴについてと依頼が来ました。


(政治)
1)日本も選挙が近くなって、毎日つばぜり合いが大変ですが、チリも似た状況。これに関わっている本人たちは死活問題ですが、外から見ている人間には毎日楽しい見ものが続きます。さて大統領選挙のほうはもう結論が見えていて楽しみ半減ですが、それでも野党側で3ヶ月前は不動の地位を占めていたラビンが揺らいでしまい、もう一人の野党候補者ピニェラは彼(ラビン)は状況を悲観し、一度大統領候補を降りようとしたが、彼を推薦するUDIがそれを許さなかったと暴露しました。他に替わりの候補がいない苦しい台所事情ですね。おまけに野党第1党のUDI(一番右翼の政党)は党首、前党首の二人がサンティアゴ東と西地区から国会議員の再選を狙いますが、世論調査では二人とも当選確実になっておらず苦しい戦い。これなんか、私には極めて興味あります。 最後は当選すると思いますが挽回のため彼らが何をするのか見ものです。

2)それから、それにもまして面白いのは政府と司法の争いです。一時、チリの裁判所は政府の管轄下の機関かとさえ思われましたが、司法の逆襲で、それ以来楽しい見ものが続いています。今週は彼らの攻撃に業を煮やしたラゴス大統領が私の親戚を標的にせず、私を目標にしなさいと発言。公共事業省不正問題で必要があれば裁判所に出頭すると明言しました。何だかピノチェットのおかれている状況、発言とそっくり同じなのが面白いですね。
公共事業省不正問題担当の女性裁判官は、私が必要と考えた時点で彼に出頭してもらいますと軽くジャブを出しています。

3)さらに今週は話題が続いて、ラゴス大統領が労働組合の全国委員長を暗殺して刑務所に入っている元軍人に恩赦を出しました。新聞報道ではこれまで現政権に人権問題で協力してきた陸軍長官の要請にこたえたものとしていますが、これに対して世論は批判の目を向けています。次期大統領になるだろうバチェレットも自分はこの恩赦に賛成しないし,大統領が恩赦を認める権利さえ、その可否を後日検討したいと発表。一方、防衛大臣は、一部の人間のダブル・スタンダードには困ったものだ。左翼側のテロリストに関しては恩赦を要請し、右翼側の恩赦に反対するなんてとコメント。しかし右翼でも左翼でも犯罪は犯罪というのが通常人の感覚と思いますが違いますか?しかしこんな政治では国は良くならないでと思ってしまいますが。

4)ピノチェット関連
水面下の戦いでしょうね。今週は表立った動き無し。ピノチェットノ奥さんと息子から出ていたピノチェット税金滞納問題に自分たちは全く関与していないとの訴えは、最高裁の合議で退かれ、継続審議になりました。で、息子は留置場に留め置きのまま。


(経済)
1)チリでもっとも富裕な人間で、ルクシックグループの総裁、創始者のアンドロニコ・ルクシックが死亡。78歳。
わずか一代で、チリ銀行など金融関係と、ロス・ぺランブレスなどの鉱山関係,CCUビールなどの工業関係の三つの分野でトップクラスの企業を持ち、一代でチリを代表する財閥を築きあげました。どこの国にも才能と運が結びついて成功するすごい人がいるものですね。私は彼と会ったことはありませんが、タイヤの商売でぺランブレス鉱山には何度も出張し、その会社の利益を追求するえげつないほど細かい仕事振りには感心させられました。

2)今年前半の輸出産品リストでは1位銅,2位モリブデンですがこの二つで50%、すごい、やっぱりチリは鉱山国ですね。続いてブドウ、鮭(鱒),セルロース、ワインの順となります。
(注)もちろんこれは銅の値段が急騰したためこうなったもので、通常なら銅の全輸出に占める割合は30%くらいでしょう。

3)チリと日本の自由貿易協定について識者の意見として、チリとしては日本との協定は非常に有益である。この観点から現政権の継続が望ましい(小泉継投)となっています。さらに他のコメントの中で,日本との貿易が増える中、日本の銀行はチリに一行しか進出しておらずそれも最小の規模のもの。もっと日本からの進出が望まれるとなっています。日本の銀行は他の産業に比べ競争力が乏しいのでしょうか。

4)ドルがややもちなおす。毎週、弱小通貨の汚名を着ていたアメリカドルが今週は若干取り直し、反発の様子を見せました。しかしこれからもう一度ドルが強くなると見る人は少ない。一方,原油価格はなおも上昇し、このためガソリン価格は来週月曜日からさらにアップ。1リットル600ペソととどまるところを知らない。車を仕事で使っている人間は,もろにこの影響を受け、給料の目減りが厳しい。

5)少し前に報告した、電力会社の元重役に対する罰金支払い判決で、被告側から出ていた金利の減免要求がとおり,40%少ない額で被告と国側が合意。被告は早速現金でこれを支払いました。例の元大臣の口利きもかなりの力を発揮したようで、この減額によると一人当たり何百万ドルの救いとなります。この減額処分を被告は受け入れ(既に罰金分は支払済みなので)、金利分を払い終えた現在、もう問題は残っていません。これで彼らの手元に残ったお金は心配なく各自が自分の才能で投資できることになったわけです。

6)欧州共同体はチリの牛肉を危険度が高いランクに位置付けました。この理由は,チリでは狂牛病はまだ発見されていませんが、過去96年から2000年まで狂牛病のあったアメリカから飼料を買い付けしていたのが悪いとしています。しかしアメリカの飼料管理の悪さにも困ったものです。


(一般)
1)チリの人口
1950年から2000年の50年間では153%も増加したチリの人口ですが、2000年からの50年ではわずか31%アップにしかならず2050年のチリの人口は2000万人を推定されています。
それからこれに関連して、チリ人で国外に住んでいる人間は約86万人です。一番数が多いのはアルゼンチン(約半数),ついでアメリカ,3位にスエーデンとなっています。面白いのはアルゼンチンに住んでいるチリ人はほとんど教育を受けておらず、チリ政権がその存在基盤を失っていった73年の革命前後に生活難からチリを出ていますが、一方アメリカやカナダに住んでいるチリ人は大学卒業が多く、大半が国籍をチリから該当国に変換する動きがあります。それからその86万人の8%に当たる7万人が不法滞在といわれます。

2)労働災害
毎週のように南部の石炭鉱山での労働災害が報道されます。マインといっても手掘りで,炭鉱の奥に入ってつるはしで石炭を掘りそれをトロッコで上にあげるという最も原始的な方法ですが、穴の中に埋まってしまい死亡という事故が続出しています。基本的な保安対策が出来ていないからですが、オーナーがテレビのニュースに出て、「私は彼らに仕事を与えている立場で、彼らに感謝されているが批難はされていないと認識しています」とコメントしていまっした。その地区の炭鉱労働者は(月2万円くらいの)低い給料でも,他の仕事がなければ、この仕事を続けざると得ないとし、チリの厳しい状況が現れています。

2)チリのホームレス
最近の調査で、現在道路で生活しているホームレスの数は7200人と発表されました。その内の半数は首都圏在住?の由。
その平均年齢は47歳で、老齢化が迫り、寒い冬の夜を路上で過すのは厳しいでしょうね。平均して過去8年間、彼らは家族と接触、連絡していないとか。日本のホームレスって何人くらいいるのかな?

3)15日の月曜日は聖母マリア昇天の日で祝日でした。で、週末が3連休になり、それを利用してたくさんのチリ人がアルゼンチンに遊びに行きましたが、そのなかで陸路メンドーサに入った連中は月曜日、国境が雪のため閉鎖され帰国できませんでした。
さて私はその日、セントロに行きましたが、それを利用して大聖堂のミサに参列しました。ウワッソ(チリのカーボーイ)姿の礼拝客が目立ったので聞いてみると、この聖母の日は豊作祈願の日となっており農業従事者が教会に祈願にくる習慣とか。まぁ日本のお稲荷さんと似たようなものでしょうか。で、大聖堂の外にはクエッカのバンドも待っていて踊りを繰り広げ、9月を待たないで建国記念日をお祝いしているようでした。3拍子のクエッカのリズムが嫌いな私はどうしてもこれになじめず、おまけに田舎のウワッソも好きでない私は、この時期、チリ人になりきれないと感じてしまいます。
ところで20日の土曜日、日本人会で催しものがあり、そこで藤尾ファミリーバンドとして子供二人と歌いました。だから歌が嫌いなわけではありません。さてチリ日本人会も催し物の度に会館を満員に出来る力がついてきました。よかった,良かった。

3)タバコ
いよいよタバコの規制が始まりそうですが、それまでにと新聞などでタバコのかけこみ宣伝が盛んです。チリは青少年の喫煙が世界的にトップクラスだそうで、そんなもん世界のトップにならんでもええでといいたいところ。

4)スキー
今年は雪が多いので、スキーシーズンのお終いは10月ごろになりそうだと発表ありました。今シーズン中のスキー客は15万人が見込まれています。スキーリフト代は日本円で約4千円くらいとチリ人にとって非常に高い価格です。

5)チリの高等教育
どうやって調べるのか良くわかりませんが、今週外国機関から発表された結果で、チリのチリ大学がラテンアメリカでは4番目にランクされました。ブラジル,メキシコ,アルゼンチンの各大学がチリ大学の上位を占めています。


(スポーツ)
1)サッカー
チリのナショナル・チームはペルーのタクナで同国のチームと対戦。3対1で負けました。しかしレベルの低い戦いで見ていてがっかりでした。で、家族内で騒動が起こります。というのはチリ人の彼らにすれば、私のチリ批判が不愉快で、いつもチリをけなすと怒る訳です。私はチリのプレーがまずいときに素晴らしいといえるわけがないと返答していますが。
しかし世界ランキング70番台なんて,本当に情けない実情です。
さらにサラスが復帰したチリ大学チームはアルゼンチンのチームを招き国立競技場で復帰第1戦を戦いましたが、肝心のサラスがPKを外し、1対0で初戦を飾れませんでした。

2)テニス
テニスはサッカーよりましです。少なくとも世界的には上のランキング。今週はアメリカ・シンシナティの大会でマスは1回戦で負けましたが、ゴンサレスは3回戦まで行きました。彼はATPランキング18位ですからね。しかし1年前,アテネ・オリンピックでメダルを取ったときの熱気が懐かしい。

以上