チリの風  その94 04年10月10日―17日

春分の日も過ぎて(もちろん秋分の日の誤りではありません)毎日暖かくなっていましたが、突然、逆戻りして、夏時間になってからすっきりしない天気が続いています。
私は出張が続き、今週は一日も朝から事務所に出社した日はありませんでした。(休んでいたのではありません、念のため)
さて今週もいろんなことがありました。


(政治)
1)ランペル
チリのトップ航空会社はランチリです、まぁ日本でいえば、日航ですね。それが海外進出の第1段としてペルーに入り、ランペルーとして運行しています。さて昨年、ペルーからチリにアエロコンチネンタルが進出してきましたが、その資本が麻薬関係の疑いがあるとしてチリから撤退させられました。それを根に持って、今回、ランペルーを訴えました。その理由はペルーの航空会社は少なくとも30%は地元資本が入ってなければならないのに、ランペルー社は見せかけの資本はともかくとして実質は100%チリ資本と訴えたわけです。裁判所はそれを受け、審査の結果、訴えの内容を確認する判定を下し、ランペルーに(期間を置いてからですが)運行の中止命令を出したわけです。
それがこの15日だったので、国中が大騒ぎ、15日の零時から、一日で5500人の乗客を運ぶ航空会社のすべての便の運行停止ですからね。観光客には大打撃でしょう、外国観光客はリマからクスコにはバスでは行けません。
しかし国際関係も、まったく小さな子供のけんかと似たレベルで行われていることが良く分かります。で、この運行中止がペルー観光と輸出に与える影響は一日1.5百万ドルと推定されています。
チリ政府はこれは政治問題ではないとして表向きは静観しているようです。
ところで、その日、私は仕事の関係で、サンティアゴから1500K北のイキケと言うところにいました。
仕事を終えてその飛行場につくとランペルーの国際便が止まっていました。それはマイアミからリマに向かう便だったのですが、リマに着陸が認められず、ひとまずチリ北部のジャンボ機の離着陸できるイキケ空港に着陸したものです。もちろん乗客は大騒ぎをしていました、私たちはこんなところに来たくて飛行機に乗ったのではないと。ランチリの係員がなだめているのですが、乗客は激昂するばかり。
この日、混乱が避けられないのは分かっていたのだから、ランペルーもマイアミからの便をキャンセルするのが正しい処置と思いましたが、ここまでこじれては、国境の町、アリカまで、チリの国内便で運び(約半時間)そのあと、車で国境を越えてタクナに入ってもらい、そこでリマ行き国内線に乗ってもらうしかないと、自分のサンティアゴへの戻り便のチェックインをしながらランチリの係員と話をしました。
しばらくしてその乗客に飛行機に戻ってほしいとアナウンスがありました。彼らがどうなったのかわからないまま、私は自分の飛行機に乗りました・・・・
夜のニュースで分かったのですが、司法の運行中止命令の後に、政府が大統領緊急命令として、暫定運行再開許可を出した由。
それにしても司法と行政が違った見解を出したわけで、この問題は後を引きそうです。 

2)サンティアゴの元大司教の死去
90歳の元大司教フレスノが死亡。長い軍部の政権の後、民生が復帰した1998年、彼はカトリックのチリ最高責任者として左右政治家の間で民主化に尽力したと言われています。ローマ法王のチリ訪問時の受け入れ責任者でもあり、法王反対のデモに頭を痛めたとも報告されています。私は、なんだか右よりの指導者だなとの印象をもっていましたが・・・。
もっともこんな簡単に右とか左とか言えない複雑な時代だったわけで、右思考を隠して左と付き合うとか、本当は左なのに右のように振舞わざるを得なかったとか、あるのでしょうが。

3)ピノチェット
今週もわれらがピノチェットのニュースは欠かせません。2)のフレスノさんは90歳で死去されましたが、ピノチェットは100までいくのではないだろうか?さて今週、医者の診断が出ました。それによるとピノチェットは中度の問題を持っていると明示しています。軽度でも重度でもないのが味噌で、擁護側の弁護士が、かねてから当方が言っておるようにピノチェット氏は裁判に耐えられる心身状態ではないとコメントし、これに対する側の弁護士は、かねてから当方が主張しているように、彼は裁判に耐えうる状態であることが確認されたとコメントしています。つまり医者の診断はどっちにでも取れると言う事です。つまり担当裁判官が彼を逮捕しても、彼を無罪にしてもその根拠はこの診断書ということになります。
まぁ彼の裁判はそういうふうに極めて政治的なもので、裁判所の上層部が政府と話し合って無罪、有罪を決定する(裁判官にそれを示唆する)のだろうと考えられます。で、無罪になれば、彼もまだ力があったということになり、有罪になれば、彼の援護軍は彼を見限ったということでしょう。もちろん、その裏に、いろいろ取引があって、これを無罪にする代わり、人権問題で旧軍人を3人くらい有罪にするとか・・・、なるのでしょうね。

4)選挙の真っ最中です。歩きながら、考えていましたが、当選するのは候補者の実力か、運か?
すると、ある候補の立て看板が置いてあって、UNDAと書いてありました。交差点で信号待ちをしていると、その立て看板が風で倒れてきて、私の足にあたり、痛いので見てみると少し血が出ていました。怒って、私はその看板を蹴っ飛ばしましたが、看板には傷はつきませんでした。私にとって悪い運だ。
ところでチリでは選挙は権利だけでなく義務です。つまり国民は投票に行く義務があります。で、行かなければ罰金が科せられます。もし選挙地から200k以上離れた地区にいて投票できない場合はそれを同地区の警察に届ける必要があります。投票権をもっていて投票しなければ、罰金は15000から9万ペソです。これを嫌って青年層を中心に選挙人登録をしない人が増えています。
(一度登録すれば取り消しは出来ません)

5)大統領の外遊
ラゴス大統領は今週、ルーマニアなど欧州諸国を訪問しましたが、時の人でないことは明白で、夜のニュースにほとんど登場しません。さてアルゼンチンから嫌われている新外務大臣は、イタリアから戻ったばかりなのに、大統領外遊に随行し、再度訪欧、アルゼンチンの彼への批判熱が冷めるのを待つ作戦。


(経済)
1)ワールド・エコノミック・フォーラム誌の発表ですが、チリは2004年の世界国別経済競争率で昨年より6位あがって22位にランクされました。1位はフィンランド、2位は米国、日本は9位です。ラテンアメリカではチリがトップです。もっともそんな統計に何の意味があるとか、チリが開発途上国から脱皮して先進国の仲間入りをするのは早すぎるとか、進歩すればするほどチリの良さが失われるとの声も聞こえそうですが、国の発展と、国民の生活向上は同時点で論ずべきと私は思いますから(国は貧乏でも自分だけ良い生活を送りたいという国もラテンにはあります)この種のランキングでチリが上がると、まるでサッカーのWカップ予選で勝ったようにうれしくなるわけです。

2)銅価格
11日に銅価格は1ポンドあたり149セントをマーク、これは過去14年間で最高の価格です。しかし銅価格がここまで高くなるのは、チリの銅委員会でも想像できなかったらしい。まぁチリにとって神風ですね。もっとも石油価格も新記録を更新して、ガソリンスタンドの表示も最近上がるばかりです。18日の月曜日にまた1リットルあたり10ペソ上がる由

3)魚の輸出も好調です。今年の輸出総額は25億ドルが予想され、10年前の3倍、漁業に従事する人口も2000年の5万2千人が今年は7万人と約40%の伸び。すごいですね。この数字の中にはサーモンの養殖も含まれています。


(一般)
1)アメリカ発見の日
10月12日はアメリカ大陸が発見された日として、中南米のほとんどの国で祝日になります。チリもそうです。その日、サンティアゴで4000人のインディへナがデモをしました。もちろん、その目的は元来この土地の主人公だった自分たちがスペイン人の手で、被支配階級に落とされ、いまだに主権を取り戻すことが出来ないというものです。

2)映画
今週の封切り案内の中に日本映画がありました。リング2です。しょうもない恐怖ものでしょうが、ちゃんと日本語風にチリでのタイトルはRINGU 2 となっています。これでは英語の分かる人も理解できないだろうな。と、文句を言いながら、実は私はそのリング(の1)を以前、映画館に見に行ったのです。
またこれも見に行くかな?
ついでにもう一つ日本の話題。
チリの新聞に日本問題が大きく載りましたが、それは青少年の自殺問題で、集団自殺の例もあげて、日本の青少年問題は深刻とするもの。その中で「引き篭もり」と日本語を載せ、120万人の青少年が自分の部屋から出ない生活を送っていると書いています。さらに日本では自殺は年に3万人あり、そのうちの20%が青少年となっています。青少年問題の理由として、社会への不安(子供がナイフで刺されても怪我をしない安全ジャケットが売られているとか)と過剰な物欲(お金ほしさに少女が売春行為など)さらに進学問題があるとしています。これを読んだチリ人はかわいそうな日本と思うことでしょう。

3)携帯電話
南米ではこれからも携帯電話の普及率が毎年アップしていくと見られていますが、その中でチリだけは例外となっています。と言うのは、アルゼンチンは現在31%、2011年に67%と予想されていますが、チリはすでに現在64%になっており、これ以上の大幅な普及は困難と見られるため。


(スポーツ)
1)サッカー Wカップ南米予選
あの、敵地でのエクアドル戦は、私の予想どおり、きっぱり負けました。私がこの試合は勝ち目がないと言うと、そんな弱気でどうするとか物事は正しく見なければいけないとか、訳のわからない批判を受けましたが、私の見る目に狂いはありませんでした。
その私は、エクアドル戦のわずか三日あとの対アルゼンチン戦を、再び負けるだろうと予断しましたが、そんな非生産的な見かたでどうするのかと、愛国心が足りないとか、再度訳のわからぬ批判を受けました。しかし何と、サンティアゴの国立競技場で満員の観衆の応援をバックにしたチリチームは世界最強のアルゼンチンに全く引けを取らない戦いをして、引き分けでした。
プロのスポーツは勝たなくては意味がないと言うのは一つの正しい見方ですが、小愛国者の私はチリがどうどうと戦ったのを見てただただ感激に震えたのでした。そんなことでは大きく育たないとの批判もあるでしょうが、チリが勝ってもおかしくない勝負をアルゼンチン相手にしたのですからね。ぜいたくは言えません。私は満足でした。
でも心配なのは、これが本当のチリの力なのか、その前にエクアドルに惨めな負け方をしたチリが本当なのか、いまだによく分からないのです。で、次のペルー戦にどっちの顔が出るのか心配です。
その点を突かれた(なぜこんなにも違うチームの顔が出てくるのか)チリの監督は、返答に困って、「それは。私たちがチリ人だからです」って回答。これって、冗談なの?

2)テニス
私の予想が当たって、デービスカップで日本を破った後、全く良いところがなく、チリ全選手が後退しています。トップのマスは世界トップ10だったのが、もう20位まで下がっています。

以上