チリの風 その92  04年9月26日―10月2日

会社からの帰り、私が営業責任者になっているタイヤ・リキャップ工場で働く工員さんと地下鉄でたまたま一緒になりました。彼はもともとのチリ人(チリの原住民族マプチェ)です。彼らをアジア系と言う説もありますが(アジア人がアラスカを経てアメリカに到着した)、私はそのアラスカ説は信じていません。しかしそういう目で見ても、日本人とはかなり違います。どちらかと言うと東南アジアの人に近いようです。さて彼はこれから夜学に行くといいました。もう40歳を超えている年齢ですが、ピノチェットの軍事革命時期に青春を過ごしたので、混乱に巻き込まれちゃんと高校を卒業できなかった。で、何とか夜学で高校を終え、イナカップと言う各種学校(短大みたいなもの)も卒業したいと向学心に燃えていました。しかし毎日、肉体労働の後、夜中までの勉強は大変なことでしょう。チリ人にもいろんな人がいるということが分かります。彼は私に、チリの国歌をマプチェ語で歌えるように教えてあげますって・・・いつか歌えるようになるかな?


(政治)
1)ピノチェット関連
しかし彼は日本でも有名だから、彼に関するニュースは日本のメディアにも載りますね。今週のトピックスは彼の訊問が始まったこと、そして私が先週予告した通り、先ずは病院で心身状態チェックが行われています。
さて彼は軍隊による左翼虐殺事件の首謀者として訴えられていますがその他に二つの訴訟が始まりました。それは国税局による不正申告問題と彼の財産が不正な手段で築かれたというものです。もっとも被告の弁護士はこの二つの訴訟にはまったく心配していないそうです。

2)10月末の地方選挙の準備が全部整いました。10月1日から選挙運動が認められ、その日の夜中、いっせいに運動員が町に出てポスターや旗を町中に張り巡らせました。
街の主要交差点などにも立て看板が林立しています。それを相手陣営の運動員にいやがらせされないよう見張るアルバイトがついているとか。テレビのニュースで、貴方はこのポスターの人に投票するのですかと聞かれたそのアルバイトは、私は政治には興味ありませんって答えて、笑ってしまった。一日働いて?(じっとそこにいるだけだが)千円位の給料をもらえるらしい。

3)内閣改造
かねてから問題になっていた閣内の人間による大統領選挙運動に終止符を打つため、大統領予備選挙候補者(二人の女性大臣)を大臣職から外すことになりました。これを利用してその他にも微調節をしてラゴス大統領の最後の閣僚入れ替えとなったわけです。で、二人の女性候補はまずは今月末の地方選挙の応援に専念し、それが終わった段階で、大統領予備選挙候補としてチリ各地を回り、支持取り付けにかかります。
笑ってしまうのは女性外務大臣が抜けた後、入ったキリスト教民主党(DC)のウォーカーが、その昔アルゼンチンの問題点として新聞に寄稿した「ペロン元大統領の影響が抜けきれず、単に選挙民への人気取り政策しかやっていない。チリとアルゼンチンを隔たるのはアンデスの山脈ではなく、彼らの政治姿勢だ・・・」が問題となり、こんな男が外務大臣になってよいのかとチリ側に噛み付いてきました。もちろんそうは言っても、はい分かりましたと、新大臣をすぐに変えるわけにも行かずチリ側は静観の構え。彼もまさか自分が外務大臣になるなんて思っていなかったので、本音を言ったのだろうが。
しかしアルゼンチンが今年の冬、国際条約を守らず、チリ向け天然ガスの供給を削減しましたが、向こうの外交政策に問題があることは明白です。

4)ボリビア問題
ボリビアのチリ大使が更迭されました。彼はボリビアの新聞とのインタビューでボリビアの海問題について同情を示しました。それに関し、チリ政府から呼び戻しを受け、チリでの説明会で、自分の過ち?を認めなかったので首になりました。ラ・パスのチリ大使館の前でデモがあったそうですが、いつもと全く違って、チリ大使はすばらしいと叫んだのでしょうか。

5)ラゴス大統領の息子が下院議員へ出馬表明。
しかし日本でもそうだが、選挙区を親子で引き継ぐのは世間を馬鹿にしていると思うがどうだろう。


(経済)
1)失業率の低下を図るため、政府は緊急プランを実施
過去3年間のワースト9.9%を記録した失業率を改善するため政府は2005年度中に政府関連で18万人の雇用を発表。いわゆる失業対策の日雇い労務ですね。これでは通常の生活をして生きていけませんが、まぁ何もないよりはましというもの。

2)石油の値段が国際的に上がり、その影響でチリ国内での販売価格が毎週のように上がっています。来週月曜日から(4日)また13ペソの上昇が予告されています。
しかし面白いですね。需要供給が大きく変化しているわけもないの、これは投機筋の作戦が当たっているということでしょうね。
世界によっしゃと手を打って笑っている人と、これはわからんと苦渋をかみしめている人がいるわけですね。

3)これと関連して電力発電の話ですが、エンデサが建設していたラルコダムが15年の歳月と57億ドルの費用をかけて今週完成、発電を開始しました。2年程前、夏の休暇でこの地方を訪れたことがありますが、現地のインディオ(チリではインディへナと呼びます)のぺウエンチェ族がダムの建設に激しく抵抗し、建設中にも何度も衝突を起こしていました。
さて、エンデサはスペイン資本の電力会社ですが、現在ラルコの他には際立った新規事業はなく、アルゼンチンからの天然ガスが信用できないとなると、他にも水力発電ダムが必要かと考えられています。


4)石油価格の急騰にもかかわらず、不思議なことにチリペソが堅調で。今週は1ドル604ペソで締め、4月以来約半年振りに600ペソの大台に近づいています。
なぜチリペソが強いのか、ドルが人気ないのか、すっきり納得できる理由がありません。

5)果物の輸出
チリの果物が世界的なレベルに近づいたことが数字になって現れています。例えば、ブドウの例では世界の輸出に占める割合はイタリアを抜いて5.8%でトップ、アボガドは13.3%で世界2位、その他梅の実、キーウィ、りんご、桃など、世界のトップクラスを占める果物が並んでいます。見栄えの良いものはすべて輸出用、悪いものが国内向けに流されますが、それでもおいしくて安ければ一般消費者の間で文句はありません。


(一般)
1)若年層による犯罪の増加
今週、3件の事件があり、世間の注目を浴びています。週末のディスコの殺人事件がサンティアゴとビーニャで、残りの1件は学校の中に刃物を持ち込んで喧嘩ですから。
しかし新聞に投書が載りました。「青年の暴力問題を、単なる社会現象ととらえ、新しい監獄の建設、判決を今より厳格にするなどが解決策と結論づけても問題の解決にはならない。問題は先ずはチリ社会の暴力化であり、国会での乱闘事件をトップに、暴力で違った考え方を制しようとするのが一般化していることを問題にすべき。さらに青少年の問題としては、若年層の失業率を下げること、スポーツや文化を楽しめる場所を提供すること、これで麻薬や犯罪が減少し、若年層の暴力問題が軽減する。」
どこの国でも問題は同じですね。
で、新法律によりパブやディスコに刃物を持って入るのは犯罪になりました。でそれを持っていないか調べる身体検査が通常に行われるようになり、風俗営業者は客の入りが激減とクレームしています。先週殺人事件がおこったサンティアゴのパブは最終的に閉店になる由。

2)スーパーマーケットでの違法作業
食品には賞味期限がついています。それを過ぎたものは、例えばひき肉など廃棄処分にされるのですが、チリのTVNが隠しカメラで、有名スーパーを追いかけたところ、それらの食品の賞味期限を書いた紙をはがし新しい期限をつけて棚に戻していることがわかりました。それを夜のゴールデンアワーで報道したので大地震。衛生局から罰金が出たのは当然ですが、スーパーマーケット側は1店を除いてコメントしていません。日本でも同じなのだろうね。

6)南極観光
以前のチリの風でお知らせしたとおり、今週南極観光船が完成。盛大にその進水式が祝われました。今月末から南極旅行が始まります。私も定年退職したら、お金をためていつか南極へこの船で行こうと思っています。飛行機ですぐに着いてしまうより感激するのでは?


(スポーツ)
1)テニスの話。 
まずはデービスカップ。チリでは国中が興奮した大事件でしたが、日本では小さな記事にもならなかったようですね。しかし同じ出来事がこれほど違って取り扱われるというのも珍しいのではないでしょうか?
さて最終日(26日)の日曜日、私はテレビで中継を見ていましたが、その中で鈴木のプレーで目立ったことがありました。それはライン際に落ちたボールの判定で、審判は彼に有利な判定を出したのですが、その地点をじっと見ていた彼は、審判に判定は違っていると、相手に有利なことを自分から認めました。テレビの解説者は感心して鈴木のことをBien educado(すごく良い教育を受けている)評価しましたが、チリでは考えられないことです。
でも日本はシリーズ0対5の完敗。1セットを取っただけで、まったく良いところがありませんでした。
それから続いてテニスですが、リオスの引退記念試合がチリ全土で行われています。今週は最北の町アリカと第2州アントファガスタでありました。
しかし彼が飛行場について町に入るまで、道端に人々が出て歓迎するのですから、彼の人気がすごいというか、チリ人のミーハー振りも行きすぎというか・・・

2)サッカー
W杯の南米予選まであと1週間。テニスのように次のエクアドル戦に5対0で勝ってほしいけど・・・無理でしょうね。
監督のオルモスはサッカー協会の支持がないからと辞任すると言う噂が流れましたが、土壇場になってこれを拒否。サッカー協会は彼が辞任でなく、首にした場合、契約上、違約金を払う必要が出てきますが、それが20万ドルで、支払えず、仕方がない当面はこれで行こうと言う事になったようです。しようもない話。


以上