チリの風 その80 04年7月4日―10日

思い切り恥をかいてしまった。8日(木)の夜、私はテレビの前に座ってペルーのアレキパから中継されるサッカーの試合を見ていた。アメリカップの予選の第1回戦。チリ対ブラジルの試合だ。

その日の昼食時、会社のメカニックの連中にチリが得点を挙げたら大声で叫ぶんだと予告しておいたが、前半、チリがPKを得て、それを決めると、約束していた通り、窓ガラスを全開にして通りに向かって大声で叫んだ。チリのゴー―――ルと。興奮してテレビの前に戻ったら、その得点は取り消され、PKのやり直し。そしてそのやり直しのPKを失敗。

もう窓のところに戻って、「今叫んだのは間違いでした―――――」と叫ぶ気力は無かった。そんなことをすれば近所から「中国人黙れ!」と叫び返されるだろう。


(政治)
1)やっぱり国内での話題は例の公共事業省の汚職問題をめぐり、裁判所内でもめていた事件でしょう。
この裁判を担当している女性裁判官グロリア・アナ・チェヴェシッチさんを最高裁判所長官がなにやら圧力をかけたのというわけですが、この事件を担当した裁判官が出した結論は、なにやら適切ではない行為が行われたが、それをもって罰則を与えると言うのは適切ではないと言うものでした。世界中、どこでも自分の上司を裁く仕組みはありません。
おもしろいのは、それを受けてラゴス大統領がもっと国民がよく理解できるような説明をしてもらいたいとコメント。本気かなそれとも単なるジェスチャーかな?
しかしチリの社会も黙って見ているわけではない。つまり、少しずつ世論が反政府になっていくわけで、これはもうすぐ実施される地方首長選挙に確実に影響するだろう。
さて今週から中断されていた尋問が再開されるらしいので、また新しい人間が被告席に上がらされることだろう。

2)メルコスールの会合が今週アルゼンチンで行われ、そこでチリのラゴス大統領とアルゼンチンのキルヒネル大統領が会談。もう天然ガス問題で両国の間がもめたことが嘘のようににこにこと仲良し振りを見せつけた。まぁ狸と狐の馬鹿し合いという感じですね。きっと狸がラゴスで狐がキルヒネルでしょう。

3)陸軍長官が行方不明の人たちの情報をもっている軍人は早くそれを司法当局に提出するよう要請。昔、こんなことが起これば、そこそ天地が動く感じでしたが、もう誰も驚かなくなっているのが時代の流れを感じされる。陸軍長官といえば、人権問題関係者には悪魔の王様のようなものだったのだから。


(経済)
1)鉱山に対する超過課税
いよいよ緊張が高まってきました。業界代表はもう政府と話をする必要は無いと言い出しています。つまり国会に法案が回されたのでその結果を待つ。これ以上政府と法案の内容について話し合っても意味がないと冷たい拒否姿勢。さぁどうなるか。
チリ政府が、儲け放題の鉱山会社に少しは税金の上乗せをしてチリ社会に貢献してもらいたいと言うものですが、もちろん新たな税金を払わされる鉱山側としては拒否するほかありません。大統領はうそつきだと言うわけで、これでチリが国際的に信用をなくすと脅迫しています。新たな税金が課せられるようだと新規プロジェクトが進行しないと脅しをかけています。
私は、鉱山会社の言っている大統領が言葉を変えたというのは正しい、ただこの新税で新規投資が凍結されるだろうと言うのは間違いと思っています。新税が出来てもチリでの投資は他国でのそれより有利だからです。どうでしょう?

2)過去最大の罰金
1997年電力会社の売買に関し、虚偽の事実を申告して、他者に被害を与えたとして当時の社長など関係者に総額7500万ドルの支払いをするよう判決が出た。これはチリの電力会社エネルシスをスペインの会社が買収するにあたってチリ側の重役は自分たちの懐を肥やすために、虚偽の情報を流し、売買が自分たちに有利になるように仕組んだと言うもの。世界中でよくありそうな話だが、それを司法が咎めて、これだけ巨額の罰金を科すと言うのは珍しい。とうぜん被告たちは最高裁判所に上告です。
ただし新聞に投書があって、7500万ドルなんて彼らにははした金だ、何しろ、司法の調べて彼らが不法に手に入れたのは7倍の5億ドルと言われているからだ。この金でサンティアゴの地下鉄全線が建設できる。公共事業省の不祥金額の100倍・・・。

3)日系のサーモン会社が第11州で所有している生簀が、最近の大雨で破れ、中に入っていたサーモンが川に流れ出る事件がおきた。その量が約100万匹と言われ環境問題になっている。そうでしょうね、100万匹の鮭は腹をすかして何でも食べるだろうから、今までそこに住んでいた魚は絶滅?してしまうかもしれない。で、その地方の漁業組合は問題の早期解決に向け、今すぐ何をすべきか漁業会社と協議したいとしている。
今年上半期の鮭の輸出は絶好調で6億4000万ドルでしたが、トップは日本向けで2億8000万ドル。ここで逃げた鮭も日本の市場に並ぶことになっていたはずです。

4)サンティアゴ交通計画
この話も既にチリの風に何度も登場していますが、今回は違った見方です。この計画が実行されるとサンティアゴ名物?の汚いバスは姿を消し、これチリの市内バスと思われるほど素晴らしい新型バスが市内を走ることになるわけですが、もちろんそれに伴ってバス代も上昇します。で、サンティアゴのバス代はなんとラテンアメリカで一番高いものになります。何でも一番は素晴らしいがバス代が一番高いのは遠慮したいところ。
ちなみにドル換算で、(距離によって運賃が変わる都市と、サンティアゴのように均一料金の2種類あるが真中くらいで比較すると)チリの現行0.5ドルはリオと同じ。ボゴタは0.4ドル。カラカス、リマ、メキシコで0.3ドル、キト、ラ・パスで0.2ドル。これがサンティアゴの新運賃は0.8ドルに!!!


(一般)
1)南部地方が大雨で大被害と言うのは先週書きました。1週間たった後もいまだに近隣地区との交通が遮断されている地区は残っていますが、さいわい雨は一段落しました。ところがサンティアゴは逆に雨が降らず、このため大気汚染がひどくなり、それが新型ビールスの病気を誘発させ、乳幼児の間の病気が深刻です。急に患者の数が増えたので、病院が対応しきれず、入院すべき患者が病室の外に並んで待っているありさま。これなら病人の症状がもっと悪くなるはず。すでに赤ちゃんが数人死亡したと報道されている。ただしチリが病気に対応できないそれほど遅れた国かというと次の数字があります。
1960年に栄養失調だった6歳までの子供は37%でしたが、2000年にはそれが3%にまで下がっています。また1歳までに死亡する子供の数でも、例えば呼吸気管系の病死は1960年に4318人いたのが2000年には86人と激減。しかし雨が降れば、洪水になって、雨が足りなければ、空気汚染から病気が蔓延。やっかいなものです。
ところで、チリの風の読者からメールがありました。サンティアゴはちょっと雨が降れば、洪水騒ぎが起こり、冠水した道を渡る手段が無くなる。そこでおっちゃんがやってきて荷物運搬用の三輪車を使って向こう側へ渡らせるアルバイトをするわけです。で、質問は、「その話は10年前のチリにもあったと記憶しますが、それが少しも変わらず、いったいチリの近代化はないのでしょうか」と言うもの。
サンティアゴの街をご存知の方は、街のアンデス山側(東側)は近代化が進み、南部、西部、北部は従来のままと言うのを目の当たりにされているわけですが、少しくらい雨が降っても、ラス・コンデス区には洪水騒ぎは起こりません。しかしレンカ区とかプダウエル区ならすぐに床下浸水でしょう。それくらい同じ街でも差があります。つまり飛行場からサンティアゴの裏を通って、

ピラミデと言うバイパスを通って、ラスコンデスに入ってくる旅行者が、ハイヤットホテルに泊まるとすると、チリって思ったより進んでいるね。欧米とほとんど変わらないよと言うことになります。それがちょっと中心を離れたところに足を踏み入れる経験をすれば、チリの低所得階級は確かに厳しい毎日を送っているねと言うことになります。実際市内を走るバスで、そんな地区に入ると、乗り降りする乗客の、顔つき、服装、話し言葉が東部の区の人間とは、別世界の住民に見えます。これはもう日本では感じないことでしょう。東京の人間が千葉の人間を馬鹿にすると言っても、住民の間にこれほど明確な差異はありませんから。
で、結論は、洪水騒ぎが毎年繰り返され、それがマスメディアで同じように報道され、政府が毎年同じように少しずつではございますが、確実に前進しておりますと回答しても、庶民は仕様が無いなとあきらめているわけです。
それから雨が降らないということはスキー場に雪が降らないということで、このままでは来週の日本人学校のスキー教室は中止になってしまいそうです。

2)ケーブルテレビ
もうチリではケーブルテレビに加入して世界の番組を楽しむと言うのは普通のことになっています。首都のサンティアゴだけではなく最北のアリカから最南端のプンタ・アレナスまでどこでもそれを楽しめます。ところで、それを楽しむには業者と契約して毎月使用料を支払う必要がありますが、そこは頭の良いチリ人のこと、金を払わず番組を楽しめる方法は無いものかと考え、不法接続を考えだしました。これに対し、業者も最新兵器を使って、どこの不法接続があるか調べだし、警察に訴えると言う仕組みいたちごっこかな?(最悪5年の懲役と言われるのですが)今週はサンティアゴの高級住宅地のマンションを集中的に調べたらなんと3分の1は不法だったと言うのですが???

3)カトリック神父の破廉恥罪
10人の少女と性的関係をもったとして訴えられている元カトリック神父が懲役12年、罰金1億ペソ(1500万円)の刑を課せられました。
これに関し、彼は刑が重過ぎるとして最高裁に持ち込む様子。一方、カトリック教会はこの罰金の支払いを求められており対策に苦慮。しかしどこにでも破廉恥な人間はいるが、それが神の教えを説いていたというのはカトリックとしては苦しい。

4)アルコール摂取量
世界ランキングが発表されてチリは第35位でした。ところで日本は28位。結構日本人も飲んでいるのですね。不思議なのは1位がルクセンブルグ、2位がハンガリー、3位がアイルランドでした。むちゃくちゃ飲んでいるのかと思ったロシアはおとなしく15位でした。


(スポーツ)
1)とうとう始まりましたね。スポーツの月が続きます。今月はサッカーのアメリカップ。来月はオリンピック。9月はテニスのデービスカップ(チリ対日本)とサッカーのWカップの南米予選。楽しみ。
で、その対ブラジル戦。一度は決まったPKを取り消した理由は、選手がPKエリアに入ったからというもの。このメキシコ人審判は、サッカーのルールを良く知らないと思われる。と言うのはPKエリアに入ったのはブラジルの選手で、チリのPKが失敗しておれば、蹴りなおしと言うことになるのだが、成功したのだから、ブラジル選手の妨害は成り立たず、そのまま得点を認めればよかったわけ。
しかし先月のWカップ予選でもチリはブラジルと対戦して、勝った試合を審判の間違った判定で引き分けになってしまったが、審判も人の子、大チームブラジルを負けさせるわけにはいかないと考えてしまうのだろう。この日の試合は、結局試合終了間際の90分にチリ選手が二人怪我でグランドを出たすきに、何しろ二人も数が多いのだから、コーナーキックを決めてブラジルが勝ちました。なんちゅうこっちゃ、たまらんな。
でも大声で叫んで取り消されたゴールを喜んだと言う私のアホな話は、翌日会社の食堂で大受けでした。

2)テニス
ATPツアーのバスタッド大会に出場中のゴンサレスはベスト4まで勝ち残り世界ランキング20位入りに王手をかけています。これに勝つと来週は世界18位まで上がる。


以上