チリの風 その77  04年6月13日―19日

(政治)
1)遠くから日本を見ていると、チリと似ている点があるのではと考えてしまいます。もちろん、日本の工業力とチリのそれでは比較になりませんが、政治的な点、たとえば、アメリカびったりの政治姿勢なんか、ねっ。
それから、それを問題と思わない国民の政治意識。同じくアメリカビッタリだったスペインの政権が倒れ、イギリスも現政権が苦戦していますが、チリも日本も国民の間に全く論争すら起こっていない。ベトナム戦争反対で、騒いでいたころの日本なら、イラクへの派兵なんて案が通るわけが無かったのですが。
隣国の関係も、日本における中国がチリではブラジルでしょう。アルゼンチンが韓国、ペルー、ボリビア北朝鮮かな?
やっぱり南米大陸にありながら、島国といわれるチリはどこか日本と似ているようです。

2)ボリビアのクレーム
アルゼンチンが突然、契約条項を遵守せず、チリ向け天然ガスの輸出を大幅に削減したため、チリ国内で混乱が起こりつつあることは既にお知らせしたとおりです。ところが突然、その削減を大幅に縮小すると発表。現在7百万M3の供給削減が来週から2百万M3以下に。
ラゴス大統領は、「ねっ、だから言ったでしょ。これは大問題ではないと。信用してくださいよ」
しかし笑ってしまう。天然ガスの供給が削減されるかもしれないと報道されたとき、そんなことは全く起こりえないと大見得を切った彼だったが、問題が深刻になってきたとき、既にガスの供給削減で町工場が泣いているほか、4度も首都で停電騒ぎが起こっているのに、担当大臣にすべての責任を取らせ、自分は全く顔を見せなかった。ここに来て風が追い風になると、とたんにこれだから。
しかしその発表の翌日、ボリビアがアルゼンチンは約束を守らず自分たちのガスをチリに出しているのでは無いか?と疑問を提出。
それは契約違反だと発表。しかしボリビア側の判断は甘い。ボリビア産の天然ガスはチリにこなくてもそれがアルゼンチン市場を満たせば、必然的にアルゼンチン産の天然ガスの必要量を下げることになり、それがチリへの輸出に回るというわけ。もちろんアルゼンチンにすれば、自国産より高いボリビアからの輸入製品を使う必要はないが、チリとの関係の維持にはそれも仕様が無いかとしているのだろう。このネゴがラゴス大統領の力量なら(アルゼンチン大統領を説得したという意味で)確かに威張る価値はある。
余談だが、今週、ある昼食会で、チリ人幹部が、私は左翼ではないので現政権を支持しているわけではないと前置きしながら、それでも隣国の大統領を見ていると、自分たちの大統領の見識、力量の高さを自慢したくなると発言しました。なかなか素晴らしいですね。

3)司法と政府
公共事業省の元大臣がいくつかの罪状で起訴されていますが、裁判所の方針はそのうちのいくつかを取り上げ、それらは罪として起訴されるべきではないとなりました。政府は「これは彼の犯したとされている事項は政治的な問題で、刑法上の問題でないとのかねてからの主張が、やっと認めてもらえた。早く彼が全面無罪放免なるよう願っている」と発表しているが、露骨に圧力をかけてそれが通ったようにも見え、三権分立が、文字通り確率されていないように見えるのは残念。

4)大サンティアゴ交通計画
サンティアゴ環境汚染問題の元凶のような公共交通問題を大改革する計画がこの大サンティアゴ計画ですが、実施計画からずるずる遅れています。この画期的な交通網整理計画が遅々として進まないのは、政府が本気でやっていないか、これに反対する現在のバス業者の力量が政府にとって侮れない強烈なものだからだろう。
サンティアゴの交通事情の悪さは、環境問題の元凶でもあるわけでこれを近代化するのは急務のはず。それが進まないところに、現政府の限界が見られる。もっともあの無敵のピノチェット時代でもこの分野には手をつけていなかった。アジェンデ政権を倒したのはバストラックの流通業界が尖兵になったという事実をピノチェット認識してたから、彼らの権益をそこなうような事態は避けたかったのだと思われる。今週、これに関して、地下鉄社長が公共事業省がアホだというような発言をして、大問題。ラゴス大統領は地方遊説を突然切り上げて首都に戻り関係大臣を集めて大会議。しっかりやるように雷が落ちた模様。
しかし現行の古いバスを廃棄にして(多分地方に安い値段で売るのだろうが)新型バスを投入するわけだが、それだけの資金力(銀行から借り入れられる信用力)のある会社は限られており(外国資本の大会社のみ?)現在市内バスを運行している、小さな会社は全部倒産ということになるだろう。運転手も古い慣行に馴染んでしまっているとして新しい会社には雇ってもらえないかも・・・
それならストでも道路封鎖でもして精一杯抵抗しようとなるのかな?
しかしこれだけ問題があると、大統領も安眠できないでしょうね。


(経済)
1)APEC準備会議
世界の貿易量の0.3%を占めるチリに世界各国の閣僚級メンバーが集まりました。それらの国の総額は世界貿易の47%を占めるらしい。その一つが日本だが、鉱山のローヤリティ問題に関し、鉱山会社とチリ政府の間の調整役として働く意志があるとの意思表示をしたらしい。

2)チュキカマタが地下鉱山に
上記のAPECの鉱山関係者会議がチュキカマタで行われ、その場で同鉱山社長のピサロは現在オープンピット(露天掘り)鉱山として世界一の大きさを誇るチュキカマタはその深さが1000mにもなっており、これではそこから掘り出した鉱物を取り出すのに費用がかかりすぎるとして、直接、鉱脈のあるところを掘る地下鉱山方式の採用を発表しました。
06年からこの計画は実施され、13年にはテニエンテ鉱山規模の全長50kmの地下鉱山になります。全長50kmですよ!
なお、近くの鉱脈にギャビ鉱山がありますが、この開発に関し、中国がコデルコと共同開発したいと乙波しています。
例のローヤルティ問題で、欧米系の鉱山会社がチリへの新規投資を再考すると圧力をかけていますが、中国はそれを待ったく気にしていないのか?

3)ガソリン価格の低下
良かったです。上がりぱなしだったガソリン価格がここに来て下がり始め経済安定に寄与しています。これで6月の物価上昇率はまたほとんどゼロになるでしょう。
もっともどこかのテロリストが、パイプラインを爆破すれば、また価格上昇は避けられないでしょうが?
まさか大手石油会社が自分でそんな事件を仕組んでいるということは無いのでしょうね。


(一般)
1)老人保護
カトリック教会のある神父が声明を出して老人保護を訴える。グローバル化の名前の下に老人が用済み廃棄物のように取り扱われている現状を嘆き、いったいどんな社会を目指しているのか考える必要があるとしている。

2)11歳の女生徒が学校に銃を持ち込む
アメリカでは良く出てくるニュースですが、チリでもこの種の話が出るなんてショックです。しかもその学校にピストルを持っていった女児はいつも他の生徒に馬鹿にされており、いつまでも馬鹿にするならしかえしにピストルで撃つと言ったところ、おまえは貧乏な家の子供だからピストルなんかあるわけは無いと言われ、次の日学校にそれを持っていったらしい。その子供はインディへナの子供だったというのが、先週書いたチリの3大差別(インディへナ、貧乏、老齢)の二つを満たしているのが悲しい。

3)教育の重要性
もちろんここで述べる項目ではなく、世界中どこでも教育の重要性は認識されている。今週の新聞の論評欄に、チリが世界の中で生き延びるための教育と題した文が掲載されたが、その中で、チリでは大卒の資格を持つ人間の平均供与は高卒のそれの4.2倍となっていた。日本だとどうだろう、せいぜい2倍かな?

4)年金
私も毎月、厚生年金の掛け金を払っています。私の場合では、最短では58歳から需給資格があるらしい。普通チリでは男性は65歳、女性は60歳で定年となる。鉱山関係者はそれよりずっと若い50歳くらいで引退している。
さて官憲の手を逃げてチリに滞在中の元アルゼンチン大統領が、自分にも元大統領の年金を支給してほしいと訴えでた。何百万ドルの隠し財産をもつといわれる彼にしてはみみっちい話だが、いずれ不正に蓄財した資金は裁判で取られてしまう、それならいっそそれらをすべて政府に差し出すことで無罪にしてもらい、後は年金で生きていこうと考えたのかもしれない。彼は3300ドル
を要求しているらしい。
(注、彼のように持ち家があれば、この金額で、死ぬまで生活に不自由無く生きていける。もっともこれでは自家用機の維持なんかは無理ですけれど)

5)イースター島
あの辺鄙な島でもチリ本土と同じく携帯電話が通じるようになりました。しかしイースター島サンティアゴの間で携帯電話が通じるなんて、同じ通話料で?と聞いてしまいそう。

6)誘拐特急(お手軽誘拐)
誘拐して2・3時間で身代金を入手、人質を解放して、犯人は逃げてしまう、そういう簡易誘拐事件は隣国アルゼンチンで大いにはやっていますが、チリにもその風が上陸し、もう今週少なくとも3件が報道されました。
何でも麻薬関連の家族を誘拐し、現金(と麻薬)を入手しようとするのが特徴らしい。したがって被害者のほうも警察に訴えでにくい状況になっている。


(スポーツ)
1)欧州ではヨーロッパカップが開催中ですが、次はペルーでのアメリカップ。ところが最初、今回こそと盛り上がったチリチームですが、主力選手が何名も参加できない状況になり、始まる前から興味が薄れています。
たとえば、エースキーパーのタピアはブラジルに移籍しましたが、そっちのほうが大事だからアメリカップは遠慮させてもらいたいとか・・・
しかし欧州カップすごいですね、スペイン対ポルトガルを実況中継で見ましたが、興奮を通り越して感動を覚えました。


以上